・・・監督は、質問の意味を飲み込むことができると礑たと答えに窮したりした。それはなにも監督が不正なことをしていたからではなく会計上の知識と経験との不足から来ているのに相違ないのだが、父はそこに後ろ暗いものを見つけでもしたようにびしびしとやり込めた・・・ 有島武郎 「親子」
・・・つばを飲み込むと直る。ピークで降りるとドンが鳴った。涼しい風が吹いて汗が収まった。頂上の測候所へ行って案内を頼むと水兵が望遠鏡をわきの下へはさんで出て来ていろいろな器械や午砲の装薬まで見せてくれる、一シリングやったら握手をした。…… 夕・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・癒っていてくれれば宜いがと御母さんの顔を見て息を呑み込む。「ええ悪いでしょう、昨日は大変降りましたからね。さぞ御困りでしたろう」これでは少々見当が違う。御母さんのようすを見ると何だか驚いているようだが、別に心配そうにも見えない。余は何と・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・大人から云えば、ただ見ていて事件の進行と筋の運び方さえ腑に落ちればそれですむのですけれども、悲しいかな子供にはそれほど一部始終を呑み込む頭がない。と云ってただ茫然と幕に映る人物の影がしきりに活動するのを眺めている訳にも行かない。どうかしてこ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・自分は今これだけの富の所有者であるが、それをこういう方面にこう使えば、こういう結果になるし、ああいう社会にああ用いればああいう影響があると呑み込むだけの見識を養成するばかりでなく、その見識に応じて、責任をもってわが富を所置しなければ、世の中・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫