・・・たとえば友だちの名をかたってパリへ出かけるいたずら者が、自分の引き立て役に純ドイツ型の椋鳥を連れて行く、その椋鳥のタイプとか、パリ遊覧自動車の運転手とか案内者とか、ベデカと首っ引きで、シャンゼリゼーをシャンセライズと発音する英国老人とかいう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・との変化があまりにはげしくて未熟なものの手に合わなかった。壺やりんごもおもしろくない事はないが、せっかく「生きた自然」の草木が美しく、それに戸外が寒くなくていい時候に、室内の「死んだ自然」と首っ引きをするのももったいないような気がした。静物・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・僕かね、僕だってうんとあるのさ、けれども何分貧乏とひまがないから、篤行の君子を気取って描と首っ引きしているのだ。子供の時分には腕白者でけんかがすきで、よくアバレ者としかられた。あの穴八幡の坂をのぼってずっと行くと、源兵衛村のほうへ通う分岐道・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・カムパネルラが又地図と首っ引きして答えました。「あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ。」「蝎の火ってなんだい。」ジョバンニがききました。「蝎がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるってあたし何べんもお父さんから聴いたわ。」・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
出典:青空文庫