・・・現にこの首府のまん中にも、こう云う寺院が聳えている。して見ればここに住んでいるのは、たとい愉快ではないにしても、不快にはならない筈ではないか? が、自分はどうかすると、憂鬱の底に沈む事がある。リスポアの市へ帰りたい、この国を去りたいと思う事・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・今でも確かゾイリアの首府には、この人の立派な頌徳表が立っている筈ですよ。」 僕は、角顋の見かけによらない博学に、驚いた。「すると、余程古い国と見えますな。」「ええ、古いです。何でも神話によると、始は蛙ばかり住んでいた国だそうです・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・目黒の行人坂、また君と僕と散歩したことの多い早稲田の鬼子母神あたりの町、新宿、白金…… また武蔵野の味を知るにはその野から富士山、秩父山脈国府台等を眺めた考えのみでなく、またその中央に包まれている首府東京をふり顧った考えで眺めねばならぬ・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・KLEIST チリー王国の首府サンチャゴに、千六百四十七年の大地震将に起らんとするおり、囹圄の柱に倚りて立てる一少年あり。名をゼロニモ・ルジエラと云いて、西班牙の産なるが、今や此世に望を絶ちて自ら縊れなんとす。 いかがです。この裂帛・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ それからなるべく心を落ちつけてだんだん市に近づきますと、さすがはばけもの世界の首府のけはいは、早くもネネムに感じました。 ノンノンノンノンノンといううなりは地の〔以下原稿数枚分焼失〕「今授業中だよ。やかましいやつだ。用があ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・生れて半年ほどの赤児をつれて、マルクス夫妻はベルギーの首府ブルッセルに移った。一八四五年一月のことである。 四「書物の海」からぬけ出たカール――ブルッセル時代―― 三年間のブルッセル時代はカール・マルクスの一生・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 伝記を読んだ方々には御承知の通りに、マリヤは、ポーランドの首府ワルソーで中学校の物理の先生をする傍副視学官をつとめていたスクロドフスキーの四人娘の末っ子として生れました。西暦一八六七年十一月に生れたから、日本が明治元年を迎えた時です。・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ ニージュニに新しくソヴェト・フォード製作工場が出来たという事実は、ソヴェトのような社会主義社会においては、単に首府モスクワの往来を、より沢山のトラックが地響たてて疾走するようになったというだけには止らない。一つの新しい工場は、きっと新・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・私達のおばあさん、ひいおばあさん達がまぶたをただらせてくすぶらせたその台所の生活が一九四七年の日本の首府東京の家々の台所となっています。婦人の封建性といわれる問題は決して抽象的な問題とはいわれません。この台所一つがたとえ民法がどう改正されよ・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 国際ペンクラブ第十四回大会は、この年九月五日から十日間、アルゼンチン首府、ブェノスアイレスに開催され、日本からはじめて島崎藤村、有島生馬の二氏が代表として出席した。大会は、国際事情の複雑な背景を負うた。同じ六月ロンドンで第二回会議を持・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫