・・・一体馬面で顔も胴位あろう、白い髯が針を刻んでなすりつけたように生えている、頤といったら臍の下に届いて、その腮の処まで垂下って、口へ押冠さった鼻の尖はぜんまいのように巻いているじゃあないか。薄紅く色がついてその癖筋が通っちゃあいないな。目はし・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・妙なものでこう決定ると、サアこれからは長谷川と高山の競争だ、お梅さんは何方の物になるだろうと、大声で喋舌る馬面の若い連中も出て来た。 ところで大津法学士は何でも至急に結婚して帰京の途中を新婚旅行ということにしたいと申出たので大津家は無論・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・家内中が、流行性感冒にかかったことなど一大事の如く書いて、それが作家の本道だと信じて疑わないおまえの馬面がみっともない。 強いということ、自信のあるということ、それは何も作家たるものの重要な条件ではないのだ。 かつて私は、その作家の・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・と言いたげな、叡智の誇りに満ち満ちた馬面に、私は話しかける。「そうして、君は、何をしたのです。」 作家は小説を書かなければいけない そのとおりである。そう思ったら、それを実際に行うべきである。聖書を読んだからといって・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・女が空中から襲って来て「妖女はその馬の前足をあげて被害の馬の口に当ててあと足を耳からたてがみにかけて踏みつける、つまり馬面にひしと組みつくのである」。この現象は短時間で消え馬はたおれるというのである。この二説は磯氏も注意されたように相互に類・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 十月の百花園で見たもの 清浦の馬面、ノビリティーナシ 写真 │ 黄蜀葵を一輪とって手に持つ。 秋草。清浦ととりまきの陣笠 婆芸者「百花園さんもさぞよろこんで居りますでしょうよ」 ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫