・・・政府の故意にして、ことさらに官途の人のみにこれをあたうるに非ず、官職の働はあたかも人物の高低をはかるの測量器なるがゆえに、ひとたび測量してこれを表するに位階勲章をもってして、その地位すでに定まるときは、本人の働は何様にてもこれに関することな・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・徹頭徹尾、今の婦人と今の男子とを相対照して今の関係にあらしむるは、我輩のあくまでも悦ばざる所なれども、眼を転じて一方より考うれば、本来物の高低・強弱・大小等は相対の関係にして絶対の義にあらず。高きものあればこそ低きものもあり、強大あればこそ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・去年の花床として、見わたしておもてに見える高低だけ言われている土のなかには、その花が咲いたら面白いだろうと思う球根が、いくつか放ったらかしになっている。そんな風にも感じる。そして、この感じは、まとめて表現しにくいままに、案外ひろく人々の心の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・そのように、小説をかく婦人と児童のために書く婦人とは、めいめいの文学の天質のちがいに立っているのであって、程度の高低だの資質の貧富によるのでないということが、はっきりされて来なければならない。 そして、このような成長も、考えてみれば、つ・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・当時の微妙な情勢は、従来のプロレタリア文学の専門技術家の多数がその生活態度と文学との上に拠りどころを失って、批判の欠けた文学をつくり出し、所謂文壇の拍手の高低によって心持を左右されることの少くないようなのに対して、一般民衆の裡にあるプロレタ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・その意味で、生産の現実事情が、集団間の関係としての政治をきめたし、歌うこころもちの波の高低も、おのずから、その社会の生きるやりかたによって、ニュアンスをちがえたことは疑えない。人間社会では、自覚されるされないにかかわらず、客観の事実として、・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・それぞれの人の為人の高低がそこに語られているばかりでなく、婦人そのものの社会的自覚が、その頂点でさえもなお遙かに社会的には狭小な低い視野に止っていた日本の女の歴史の悲しい不具な黎明の姿を、そこに見るのである。 景山英子は、その生涯の間に・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・窪地に廃墟が立ち、しかし樹木はこの初夏格別に美しい新緑をつけた。高低のあるこの辺の地勢は風景画への興味を動かすのである。ほんとうに、ことしの新緑の美しかったこと。地べたの中にアルカリが多くなっていたせいか、新緑は、いつもの年よりも遙かに透明・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 熱の高低が激しくて看護婦のつける温度表には随分激しい山がたが描かれて居るので彼女と両親は夜も寝ないで心配を仕つづけて来ました。 大柄だと云ってもまだやっと満七つと幾月と云う体なのですものそこへ三つも氷嚢をあてて胸に大きな湿布を巻き・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・その居眠りは、馬車の上から、かの眼の大きな蠅が押し黙った数段の梨畑を眺め、真夏の太陽の光りを受けて真赤に栄えた赤土の断崖を仰ぎ、突然に現れた激流を見下して、そうして、馬車が高い崖路の高低でかたかたときしみ出す音を聞いてもまだ続いた。しかし、・・・ 横光利一 「蠅」
出典:青空文庫