・・・であるが、展覧会がなかった時代には書画会以外に書家や画家が自ら世に紹介する道がなかったから、今日の百画会が無名の小画家の生活手段であると反して、当時の書画会は画を売るよりは名を売るを目的としてしばしば高名な書家や画家にすらも主催された。書画・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
昭和のはじめ、東京の一家庭に起った異常な事件である。四谷区某町某番地に、鶴見仙之助というやや高名の洋画家がいた。その頃すでに五十歳を越えていた。東京の医者の子であったが、若い頃フランスに渡り、ルノアルという巨匠に師事して洋・・・ 太宰治 「花火」
・・・よく聞いてみると、当時高名であった強盗犯人山辺音槌とかいう男が江の島へ来ているという情報があったので警官がやって来て宿泊人を一々見て歩き留守中の客の荷物を調べたりしたというのである。強盗犯人の嫌疑候補者の仲間入りをしたのは前後にこの一度限り・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・子細は、其主人、自然の役に立ぬべしために、其身相応の知行をあたへ置れしに、此恩は外にないし、自分の事に、身を捨るは、天理にそむく大悪人、いか程の手柄すればとて、是を高名とはいひ難し」とはっきりした言葉で本末の取りちがえを非難している。してみ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 三沢の話 何とかコーセン和尚あり、有名 或僧、出かけて「久しくコーセン和尚の高名をきく、麦コーセンか、米コーセンか」「味って見ろ」「喝!」「むせたか、むせたか」 雪のあくる日 三・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・まして封建性のつよい日本のように、高名な祖父、或は父が家庭内で支配権をおのずから握っているばかりでなく、世間へ出てまで二言目には先ずあれは誰それの息子、娘として批判の基準をおかれることは、いかばかり苦痛であろう。弱気な若いものが中途半端に萎・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫