・・・空は底を返したるごとく澄み渡りて、峰の白雲も行くにところなく、尾上に残る高嶺の雪はわけて鮮やかに、堆藍前にあり、凝黛後にあり、打ち靡きたる尾花野菊女郎花の間を行けば、石はようやく繁く松はいよいよ風情よく、えんようたる湖の影はたちまち目を迎え・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・と「摩耶の高根に雲」、「迎いせわしき」と「風呂」、「すさまじき女」と「夕月夜岡の萱根の御廟」、等々々についてもそれぞれ同様な夢の推移径路に関すると同様の試験的分析を施すことは容易である。 こういうふうの意味でのアタヴィズムはむしろあると・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・やはり文学がすきで、作文のなかに漱石もどきに、菫ほどの小さき人云々と書いたりしていた高嶺さん。ショルツについて分教場でピアノを勉強していたこの友達は、独特なシントーイストの妻となって、小説を書く女とのつき合いなどは良人であるひとからとめられ・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・宮本百合子 一九四三年九月八日〔大森区新井宿一ノ二三四五 高根包子宛 本郷区林町二一より〕 先日は山からのおたよりありがたく頂きました。お忙しくてもいつも御元気で本当に何よりとおよろこび申しあげます。 わたくしも五ヵ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫