・・・丹羽文雄氏が、放蕩はしてもよそへ子供は拵えない、何しろ子供にはかなわないからね、というようなことを、その常套性と旧い態度とに対して揶揄的高笑いをうける気づかいなしに、二十歳前後の若い女の座談会で云っていられる状態なのである。『文芸』十月・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・男の熱しきった心は、見すかすように高笑いされた事やら□□(見て居た娘の燃えて居た事やらを思ってジッとして居られないほど大声で叫びたいほど波打って居た。 頭は火の様にほてって体はブルブル身ぶるいの出るのをジッとこらえて男は立ち上る拍子にわ・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・という小説は、戦場の野蛮さと非人間さが、現代の理性とヒューマニティーを片はじから喰いころしてゆく、暴力の血なまぐさい高笑いを描いた作品であった。榕子の言葉は、こんにち、こんどは美貌の女の唇をとおして日本の中で、語られる極めてインヒューマンな・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 主任は小気味よさそうに高笑いしている。自分はそのこまかく折目のついた新聞を手にとり、同志川口浩、徳永、橋本、貴司などが引致されたというところを繰かえして読み、これらの人々の闘争を、身近に感じるのであった。 大会が持たれたという事は・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・とを知りぬいているので――最もよい場合を知り、わるい場合を目撃しつつあるので――仲人をやることは大役すぎます。寧ろいやね。紹介をしてあげるのがせきの山です。そう話した。そしたら「そりゃそうだね」と高笑いをして居た。嬉しいときの高笑いは本当に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 雲は紫に赤にみどりにその帳をかかげて乾坤の間に高笑いする大火輪を見守った。 天もやがてはその火輪に下って来られる也土も皆驚異の目を見はって大きく生れて小さく育ち大きくなっていずこにかもり行く輝きのたまを見た。 金の衣を着、黄金・・・ 宮本百合子 「小鳥の如き我は」
・・・ 常盤の君はわきに居る人をはばかる様子もなく兄君ばかりを相手にしてしゃべっては高笑いして居る。「人もなげな様子をして居る人だ。人にすかれない人にかぎって斯うだから、世の中は不思議だ」まだ年若なくせに光君はもう年よったようにこんな世間なれ・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・自分達お互いがよく生きようとする希望、お互いに信頼してはっきりと生きて行こうという希望、新しい文学の明るい面、ナンセンスではない明るさ、馬鹿笑いでない高笑い、愉快な足どり、一つの希望に結びつけて来る努力、その努力を尊重する気持、前進する気持・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・そして神経的なまとまりのない高笑いをした。 もう男にすれきった女のする様な大胆な凝視を、男の瞳の中になげ込んで男の心の奥の奥までを見ぬきたい様な、片手でつかまえて片手でつきとばしてやりたい様な気持になった。「一寸の間しずかに落ついて・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・毛皮の襟からでている唇をうごかして彼女たちは番兵の理解せぬ言葉をしゃべり、黒ずくめの女の方が高笑いをした。 番兵は銃をゆすりあげ、さらに女たちの後姿をみまもった。街の平ったい建物のみとおし。後から取りつけたに違いないバルコニーが一つ無意・・・ 宮本百合子 「モスクワ印象記」
出典:青空文庫