・・・入院中流産なされ候御婦人は、いまは大方に快癒、鬱散のそとあるきも出来候との事、御安心下され度候趣、さて、ここに一昨夕、大夕立これあり、孫八老、其の砌某所墓地近くを通りかかり候折から、天地晦冥、雹の降ること凄まじく、且は電光の中に、清げなる婦・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・其苦楽を共にするの契約なるが故に、一家貧にして衣食住も不如意なれば固より歌舞伎音曲などの沙汰に及ぶ可らず、夫婦辛苦して生計にのみ勉む可きなれども、其勉強の結果として多少の産を成したらんには、平生の苦労鬱散の為めに夫婦子供相伴うて物見遊山も妨・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・元来を言えば婦人の遊楽決して咎む可らず。鬱散養生とあれば花見も宜し湯治も賛成なり、或は集会宴席の附合も自から利益なれども、其外出するや子供を家に残して夫婦の留守中、下女下男の預りにて、初生児は無理に牛乳に養わるゝと言う。恰も雇人に任せたる蚕・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫