・・・ かように暗裏の鬼神を画き空中の楼閣を造るは平常の事であるが、ランプの火影に顔が現れたのは今宵が始めてである。『ホトトギス』所載の挿画 年の暮の事で今年も例のように忙しいので、まだ十三、四日の日子を余して居るにもかかわら・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・彌五右衛門は「某は只主命と申物が大切なるにて、主君あの城を落せと被仰候わば、鉄壁なりとも乗りとり可申、あの首とれと被仰候わば、鬼神なりとも討ち果し可申と同じく、珍らしき品を求めて参れと被仰候えば、此上なき名物を求めん所存なり」という封建武人・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・だから、室生犀星氏のような、ああいう意図的に小説の世界を小説の世界としてこしらえつづけて来ている作家が、作家生活の時期時期によって何処で所謂小説の鬼神をつかまえて見せるか、そのこともやまも知りきっているひとが、今日は小説らしい小説を書いてい・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・候えども、なお忍んで申候は、それはいかにも賢人らしき申条なり、さりながら某はただ主命と申物が大切なるにて、主君あの城を落せと仰せられ候わば、鉄壁なりとも乗り取り申すべく、あの首を取れと仰せられ候わば、鬼神なりとも討ち果たし申すべくと同じく、・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・し候えども、なお忍んで申候は、それはいかにも賢人らしき申条なり、さりながら某はただ主命と申物が大切なるにて、主君あの城を落せと仰せられ候わば、鉄壁なりとも乗取り申すべく、あの首を取れと仰せられ候わば、鬼神なりとも討果たし申すべくと同じく、珍・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・恐らくそれらの名は新しいパウロによって鬼神として斥けらるべきものだろう。我らは「知らざる神に」祭壇を築いて、その神を説きあかすべきパウロの出現を待つ。そうして近代精神の造り出したあらゆる偶像の破壊を期待する。 右のごとき偶像の破壊と再興・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫