・・・おそろしくして駄洒落もなく七戸に腰折れてやどりけるに、行燈の油は山中なるに魚油にやあらむ臭かりける。ことさら雨ふりいでて、秋の夜の旅のあわれもいやまさりければ、さらぬだに物思う秋の夜を長み いねがてに聞く雨の音かな・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・釜に残った油の分は魚油です。今は一缶十セントです。鰯なら一缶がまあざっと七百疋分ですねえ、締木にかけた方は魚粕です、一キログラム六セントです、一キログラムは鰯ならまあ五百疋ですねえ、みなさん海岸へ行ってめまいをしてはいけません。また農場へ行・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・長椅子からよっぽどはなれた所に青銅製の思い切って背の高いそして棒の様な台の上に杯の様な油皿のついた燈火を置いて魚油を用うるので細い燈心から立つ黄色い焔の消えそうなほどチラチラする事が多くうすい油烟が絶えず立つ。すべてよっぽど更けた夜の様・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫