・・・ただ、魚類に至っては、金魚も目高も決して食わぬ。 最も得意なのは、も一つ茸で、名も知らぬ、可恐しい、故郷の峰谷の、蓬々しい名の無い菌も、皮づつみの餡ころ餅ぼたぼたと覆すがごとく、袂に襟に溢れさして、山野の珍味に厭かせたまえる殿様が、これ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・朝早く魚河岸の方へ買出しに行った広瀬さんも金太郎もまだ戻って見えなかったが、新鮮な魚類を載せた車だけは威勢よく先に帰って来て、丁度お三輪が新七と一緒に出掛けようとするところへ着いた。「広瀬さんにもよろしく。金さんにもよろしく」 と別・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・君たちには、まだまだ、この幽玄な、けもの、いや、魚類、いや、」ひどくあわてはじめた。顔をあからめ、髭をこすり、「これは、なんといったものかな? 水族、つまり、おっとせいの類だね、おっとせい、――」全然、だめになった。 先生には、それがひ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・これだけの振動があれば、適当な境界条件の下に水面のさざ波を起こしうるはずであるし、また水中の魚類の耳石等にもこれを感じなければならないわけである。もっとも、魚類がこの種の短週期弾性波に対してどう反応するかについて自分はあまりよく知らないが、・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 樹木の年輪や、魚類の耳石の年輪や、また貝がらの輪状構造などは一見明白な理由によって説明されるようではあるが、少し詳細に立ち入って考えるとなると、やはりわからないことがかなりありそうである。木の年輪にしても、これを支配する気象的要素の週・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・というものが色々あった、例えばある二、三の鳥類、それから獣類の心臓、反芻類の第一胃、それから魚類ではかながしらなどがいけないものに数えられている外に、豆がいけないことになっている、この「豆」というのが英語ではビーンと訳してあるのだが、しかし・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・上層と下層における魚類の色を自然淘汰によって説明した動物学者があるが、その基礎とするところは海中における光の吸収の研究である。また海岸の森林が魚類に如何なる影響があるかという問題があるが、これもいわゆる魚視界と名づける光学上の問題が多少関係・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・たとえば利牛の句十八の中に鳥類は二度現われるが魚類は一つも現われないのである。 史邦の句三十八ばかりを書き抜いてすぐ気のついたことは「雨月」複合の多いことである。「月細く小雨にぬるる石地蔵」「酒しぼるしずくながらに月暮れて」「塩浜にふり・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・わたくしの家では瓜類の中で、かの二種を下賤な食物としてこれを禁じていたのである。魚類では鯖、青刀魚、鰯の如き青ざかな、菓子のたぐいでは殊に心太を嫌って子供には食べさせなかった。 思返すと五十年むかしの話である。むかし目に見馴れた橢円形の・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ただし飲酒は一大悪事、士君子たる者の禁ずべきものなれば、その入費を用意せざるはもちろんなれども、魚肉を喰らわざれば、人身滋養の趣旨にもとり、生涯の患をのこすことあるゆえ、おりおりは魚類獣肉を用いたきものなり。一ヶ月六両にては、とても肉食の沙・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
出典:青空文庫