・・・それは百合のような鱗片から成った球根ではあったが、大きさや格好は今度のと似たものであった。彼はその時分の事をいろいろ思い出していた。焦げた百合の香ばしいにおいや味も思い出したが、それよりもそれを炒ってくれた宿の人々の顔やまたそれに付きまとう・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・ 厚さ一センチ程度で長さ二十センチもある扁平な板切れのような、たとえば松樹の皮の鱗片の大きいのといったような相貌をした岩片も散在している。このままの形で降ったものか、それとも大きな岩塊の表層が剥脱したものか、どうか、これだけでは判断しに・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
普通中学校などに備え付けてある顕微鏡は、拡大度が六百倍乃至八百倍ぐらいまでですから、蝶の翅の鱗片や馬鈴薯の澱粉粒などは実にはっきり見えますが、割合に小さな細菌などはよくわかりません。千倍ぐらいになりますと、下のレンズの直径が・・・ 宮沢賢治 「手紙 三」
・・・異様に白く、或は金焔色に鱗片が燦めき、厚手に装飾的な感じがひろ子に支那の瑪瑙や玉の造花を連想させた。「なあ、ヘェ、あてらうちにこんなん五匹いるわ」 それは普通の出目金で、真黒なのが、自分の黒さに間誤付いたように間を元気に動き廻ってい・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・宮の柱激しく揺れ、その間からヴィンダーブラ、ミーダの使者一、二、翼を持ち、黒鉄の鱗片で鎧った姿を現す。使者一 御注進です! 吉報を齎したお賞めの言葉を先ず下さい。使者二 悦び、悦び! 悦びヴィンダー ミーダ云え! 何・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫