・・・それは瀝青らしい黒枠の中に横文字を並べた木札だった。「何だい、それは? Sr. H. Tsuji……Unua……Aprilo……Jaro……1906……」「何かしら? dua……Majesta……ですか? 1926 としてありますね・・・ 芥川竜之介 「蜃気楼」
・・・「ははあ、和尚さん、娑婆気だな、人寄せに、黒枠で……と身を投げた人だから、薄彩色水絵具の立看板。」「黙って。……いいえ、お上人よりか、檀家の有志、県の観光会の表向きの仕事なんです。お寺は地所を貸すんです。」「葬った土とは別なんだ・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・東京の大新聞二三種に黒枠二十行ばかりの大きな広告が出て門人高山文輔、親戚細川繁、友人野上子爵等の名がずらり並んだ。 同国の者はこの広告を見て「先生到頭死んだか」と直ぐ点頭いたが新聞を見る多数は、何人なればかくも大きな広告を出すのかと怪む・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・それをききながら、来ている手紙を一つ一つ見ていると、その中から黒枠が出て来た。私のところは社交的なつきあいというものは少いから、黒枠は何ごとかと視線のあらたまる思いでうちかえし読んで、覚えずまあ、どうしたことなんだろう、と歎息した。その不幸・・・ 宮本百合子 「若い母親」
出典:青空文庫