・・・台詞がかった鼻音声。 酒が相当にまわって来たころ、僕は青扇にたずねたのである。「あなたは、さっき職業がないようなことをおっしゃったけれど、それでは何か研究でもしておられるのですか?」「研究?」青扇はいたずら児のように、首をすくめ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・おとなたちは、鼻音をたてて眠っているので、この光景を知らない。鼠や青大将が寝床のなかにまではいって行くのであるが、おとなたちは知らない。私は夜、いつも全く眼をさましている。昼間、みんなの見ている前で、少し眠る。 私は誰にも知られ・・・ 太宰治 「玩具」
・・・そうして口の上に陣取って食物の検査役をつとめる鼻までも徴発して言語係を兼務させいわゆる鼻音の役を受け持たせているのである。造化の設計の巧妙さはこんなところにも歴然とうかがわれておもしろい。 こおろぎやおけらのような虫の食道には横道にその・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫