・・・その三月の時、日頃彼を熱愛していた母は、最愛の息子が自殺して苦悶から逃げようとした態度を激励的に叱責するよりも先に、その純情と苦悶とに自分がうたれ、感傷し、感情の上で弟にまきこまれた。五ヵ月後、彼が遂に死んだ時も、母はこの濁世に生きるには余・・・ 宮本百合子 「母」
・・・っていないのであるが、漠然この現実とブルジョア文学だけではあきたらぬ心持を托して読むのであるから、一方からいうとプロレタリア文学は今日些細なプロレタリア風な薬味を実は添えているだけであっても、読者から叱責され、或はきびしく批判されるという心・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・そして、厳しく自分を叱責する眼付きで端座し、間髪を入れぬ迅さで再び静まりを逆転させた。見ていて梶は、鮮かな高田の手腕に必死の作業があったと思った。襯衣一枚の栖方はたちまち躍るように愉しげだった。 その夜は梶と高田と栖方の三人が技師の家の・・・ 横光利一 「微笑」
・・・足を使っていた少年の彼を師匠は仮借するところなく叱責した。種々に苦心してもなかなか師匠は叱責の手をゆるめない。ある日彼はついに苦心の結果一つのやり方を考案し、それでもなお師匠が彼を叱責するようであれば、思い切り師匠を撲り飛ばして逃亡しようと・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫