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・・・けれども、相方がある程度までは異性になれていること、周囲に比較すべき文化、人材の多いこと。並に、当人達も、田舎よりは情操の訓練を受ける機会が多いため、概して軽浮な中にも敏感で、よくいえば趣味よく、悪くいえば狡く打算をもって感情を整理して行く・・・
宮本百合子
「惨めな無我夢中」
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・・・はるかに狼が凄味の遠吠えを打ち込むと谷間の山彦がすかさずそれを送り返し,望むかぎりは狭霧が朦朧と立ち込めてほんの特許に木下闇から照射の影を惜しそうに泄らし、そして山気は山颪の合方となッて意地わるく人の肌を噛んでいる。さみしさ凄さはこればかり・・・
山田美妙
「武蔵野」