・・・つっているのもまことに感服ものであるが、その左側に文麿公が、髪までをヒットラー風に額へかきおろし、腕に卍の徽章をまいて、ヒットラーになりすまして笑いもせず貴公子らしく写っている姿は、相当なものである。あっさりとただ支那服に著換えただけらしい・・・ 宮本百合子 「仮装の妙味」
・・・又は、後半の狂言風な可笑しみで纏め、始めの自責する辺などはごくさらりと、折角、一夜を許し、今宵の月に語り明かそうと思えば、いかなこと、この小町ほどの女もたばかられたか、とあっさり砕けても、或る面白味があっただろう。 行き届いて几帳が立て・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・と笑い乍ら、あっさり至極あたり前に片づけて仕舞いそうにさえ感じられるのだ。 傍机の壺に投げ入れた喇叭水仙の工合を指先でなおし乍ら、愛は、奇妙なこの感情を静に辿って行った。拘泥して居た胸の奥が、次第に解れて来る。終には、照子に対するど・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・ 隆治さんの手紙は相変らずあっさりしているけれど、今度は自分でも考えることもあるとみえて、島田のみんなが元気なので安心したということや、顕兄様のことを何卒よろしくとくり返し書かれていて、読む方はおのずから感じることも深う御座います。あと・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・へ進み、快適なテムポであっさりと読みなれた人々にきらわれるかもしれない、ばか念のいれかたで、「道標」のおよそ第三部ぐらいまで進んでゆこう。そして、女主人公の精神が、より社会的に、ほとんど革命的に覚醒され、行動的に成長したとき、作品の構成もテ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・そういう女のひとをのせたダットサンが街角で故障をおこして困っているところを、お手伝いしましょうか、とよって行って、動けるようになったら、ありがとう、であっさり別れず、それから細君を加えない一種の交際がはじまるというような現実もあるらしかった・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・今日の、あくどい、ジャーナリスティックになりきった、ごみっぽい作品の間に、阿川弘之という人の小説は、表現にしろ、なんでもないようだが、よく感じしめ、見つめた上でのあっさりした、くっきりした形象性をもっていて、ふっくり、しかも正面から感性的に・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・科学者たちが、適切な共同声明を発表しているのに、文学者は、なぜそのようにあっさりと、はっきりと行為しないのでしょうか。このことについてしきりに考えます。2、吉田首相は「放談」ぐせがつきすぎました。タイコモチにばかりかこまれて、半面自分自・・・ 宮本百合子 「戦争・平和・曲学阿世」
・・・そして出口の方へ行こうとして、ふと壁を見ると、今まで気が附かなかったが、あっさりした額縁に嵌めたものが今一つ懸けてあった。それに荊の輪飾がしてある。薄暗いので、念を入れて額縁の中を覗くと、肖像や画ではなくて、手紙か何かのような、書いた物であ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・それに比べると、欅の葉は、欅が大木であるに似合わず小さい優しい形で、春芽をふくにも他の落葉樹よりあとから烟るような緑の色で現われて来、秋は他の落葉樹よりも先にあっさりと黄ばんだ葉を落としてしまう。この対照は、常緑樹と落葉樹というにとどまらず・・・ 和辻哲郎 「松風の音」
出典:青空文庫