・・・ 平和に渇した頭は、とうてい安んずべからざるところにも、強いて安居せんとするものである。 二 大雨が晴れてから二日目の午後五時頃であった。世間は恐怖の色調をおびた騒ぎをもって満たされた。平生聞ゆるところの都会・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・しかしこれら市中の溝渠は大かた大正十二年癸亥の震災前後、街衢の改造されるにつれて、あるいは埋められ、あるいは暗渠となって地中に隠され、旧観を存するものは殆どないようになった。 そのころ、わたくしはわが日誌にむかしあって後に埋められた市中・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・これに反して、新しい人間生活のために暗渠をつくり、灌漑用水を掘り、排水路をつけて、自身の歴史をみのらしてゆこうとする事業は、まったく新しい事業である。一揆、暴動などという悲劇的な正義の爆発の道をとおらずに、人民の全線が抑圧に抵抗しようとする・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫