・・・云わば Delphi の巫女である。道の上の秘密もとうの昔に看破しているのに違いない。保吉はだんだん不平の代りにこの二すじの線に対する驚異の情を感じ出した。「じゃ何さ、このすじは?」「何でしょう? ほら、ずっと向うまで同じように二す・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ 巫女 年をとった巫女が白い衣に緋の袴をはいて御簾の陰にさびしそうにひとりですわっているのを見た。そうして私もなんとなくさびしくなった。 時雨もよいの夕に春日の森で若い二人の巫女にあったことがある。二人とも十二、・・・ 芥川竜之介 「日光小品」
・・・ 一体わたしは、――わたしは、――(突然烈しき歔欷巫女の口を借りたる死霊の物語 ――盗人は妻を手ごめにすると、そこへ腰を下したまま、いろいろ妻を慰め出した。おれは勿論口は利けない。体も杉の根に縛られている。が、おれはその間に・・・ 芥川竜之介 「藪の中」
・・・ ところでお島婆さんの素性はと云うと、歿くなった父親にでも聞いて見たらともかく、お敏は何も知りませんが、ただ、昔から口寄せの巫女をしていたと云う事だけは、母親か誰かから聞いていました。が、お敏が知ってからは、もう例の婆娑羅の大神と云う、・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・こうなると話にも尾鰭がついて、やれあすこの稚児にも竜が憑いて歌を詠んだの、やれここの巫女にも竜が現れて託宣をしたのと、まるでその猿沢の池の竜が今にもあの水の上へ、首でも出しそうな騒ぎでございます。いや、首までは出しも致しますまいが、その中に・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・――神か、あらずや、人か、巫女か。「――その話の人たちを見ようと思う、翁、里人の深切に、すきな柳を欄干さきへ植えてたもったは嬉しいが、町の桂井館は葉のしげりで隠れて見えぬ。――広前の、そちらへ、参ろう。」 はらりと、やや蓮葉に白脛の・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・が、額の下の高麗べりの畳の隅に、人形のようになって坐睡りをしていた、十四になる緋の袴の巫女を、いきなり、引立てて、袴を脱がせ、衣を剥いだ。……この巫女は、当年初に仕えたので、こうされるのが掟だと思って自由になったそうである。 宮奴が仰天・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・が、いかな事にも、心を鬼に、爪を鷲に、狼の牙を噛鳴らしても、森で丑の時参詣なればまだしも、あらたかな拝殿で、巫女の美女を虐殺しにするようで、笑靨に指も触れないで、冷汗を流しました。…… それから悩乱。 因果と思切れません……が、・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・ この爺さんは、「――おらが口で、更めていうではねえがなす、内の媼は、へい一通りならねえ巫女でがすで。」…… 若い時は、渡り仲間の、のらもので、猟夫を片手間に、小賭博なども遣るらしいが、そんな事より、古女房が巫女というので、聞く・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・むかし、魔法を使うように、よく祈りのきいた、美しい巫女がそこに居て、それが使った狢だとも言うんですがね。」 あなたは知らないのか、と声さえ憚ってお町が言った。――この乾物屋と直角に向合って、蓮根の問屋がある。土間を広々と取り、奥を深く、・・・ 泉鏡花 「古狢」
出典:青空文庫