・・・ だからといって作家同盟の方向が根本的に誤っているとか、または林房雄の憫然たるアナーキー性の爆発的言辞を引用すれば「鎌倉に引込んだ僕の方がプロレタリア的仕事をするから見ていろ」などというに至っては、すでに論外である。 真にプロレタリ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・そこで考えたにゃ、ものは何でも陰陽のつり合が大切だ。幽霊は陰のものだから陽のものを一つとり合わせて見ようてんで柳を描いたら、うまいこと行ったんだって。――男と女だって、生きてるときは男が陽で女が陰だが死ぬと変りますね、土左衛門ね、ほら、きっ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・それと相談したとて先方が神でもなければ陰陽師でもなく、つまり何もわからぬとは知ッていながらなおそれでもその人と膝を合わせてわが子の身の上を判断したくなる。それでまた例の身贔負,内心の内心の内心に「多分は無難であろうぞ」と思いながら変なもので・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・昔の和歌に巧妙な古歌の引用をもって賞讃を博したものがあるが、この種の絵もそういう技巧上の洒落と択ぶ所がない。自己の内部生命の表現ではなく、頭で考えた工夫と手先でコナした技巧との、いわばトリックを弄した芸当である。そうしてそのトリックの斬新が・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・もし『菊と刀』の著者がこの作を読んだのであったならば、この個所を有名な証拠として引用したであろう。 が、そこにこそ問題があるのであることを、私は久しい間気づかなかった。世間の思わくの前に苦しむのであって、自分の良心の前に苦しむのでない、・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫