・・・何か珍妙なデマを飛ばしたくてうずうずしているようだった。 案の定東京へ帰って間もなく、武田麟太郎失明せりという噂が大阪まで伝わって来た。これもデマだろうと、私はおもって、東京から来た人をつかまえてきくと、失明は嘘だが大分眼をやられている・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・ 豹吉はその男の背中を見ていると、妙にうずうずして来た。 今日の蓋あけに出くわしたその男の相手に、何か意表に出る行動がしたくてたまらなくなったのだ。はや悪い癖が頭をもたげたのだ。「何でもええ。あっというようなことを……」 考・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・殺されたがって、うずうずしていやがる。「禍害なるかな、偽善なる学者、パリサイ人よ、汝らは酒杯と皿との外を潔くす、然れども内は貪慾と放縦とにて満つるなり。禍害なるかな、偽善なる学者、パリサイ人よ、汝らは白く塗りたる墓に似たり、外は美しく見ゆれ・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・しかし、私の良心は、まだうずうずしていた。大作家の素質に絶望した青年が、つまらぬ一新進作家の名をかたって、せめても心やりにしているということは、実にみじめで、悲惨なことではないか、と思えば、私はいても立っても居られぬ気持であった。けれども、・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
出典:青空文庫