・・・ 裏通りの彼の人の叔父の家へ行けばすぐわかる事だけれ共、人をやるほどの事でもなしと思って、「おととい」出したS子への手紙の返事を待つ気持になる。 飛石の様に、ぽつりぽつりと散って居る今日の気持は自分でも変に思う位、落つけない。 ・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ 魯迅は十三の年、可愛がってくれていた祖父が獄舎につながれるようなことになってから極度に落魄して、弟作人と一緒に母方の伯父の家にあずけられた。魯迅は「そこの家の虐遇に堪えかねて間もなく作人をそこに残して自分だけ杭州の生家へ帰った」そして・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
・・・ソヴェトの友の会では、去年の十月、革命記念祭に向って見学団派遣を計画し、農民代表として石川県の農民の山野芳松という小父さんが決定されるまでに運んだ。政府は、旅券をよこさなかった。農民にソヴェト同盟の真の姿を見せまいとするのである。 現に・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・小さなワイマールの市で枢密顧問官であったゲーテの祖父が、どんなにか業々しくその地位を考えていたかを私どもは知っている。フォン・ヴェストファーレンが社会的偏見で見られているユダヤ人のマルクス一家と、そのように親しくつきあい、娘たちの友情を認め・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・コフマンはこの一貫した方針に立って、レイ小父さんという名で年少者のために十数年来活動して来ている人なのだが、彼が特に年の小さいものたちを、希望と期待との対象としたのはどういうわけからであったろう。 我々が住んでいる今日の文明は、昔に比べ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 物臭さそうに看守は肩から立ち上って、「小父さァん」と小使いを呼んだ。 三日ばかりで、組合の男の同志は月島署へまわされた。 看守が残った女の同志に、「君ァ、鳩ぽっぽかと思ってたらどうしてなかなか偉いんだそうじゃないか」・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 小父貴にでもそれを云われたらともかく一応はふくれるにちがいない娘さんたちが、それと同じ本質のことを、アナトール・フランスの言葉というようなものを引用したらしく文学のように話されれば、何かちがった瞬きようをしてきくという心は、読者の・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・残忍な生れつきの祖父と、財産あらそいばかりしている小父たち。たちのわるい残酷ないたずらをするのが日課であるいとこたち。ゴーリキイの不安な毎日の中で、たった一つのよろこびと慰めとなったのは、おばあさんでした。昔話が此上なく上手で、人間は、辛棒・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・太田は祖父伝左衛門が加藤清正に仕えていた。忠広が封を除かれたとき、伝左衛門とその子の源左衛門とが流浪した。小十郎は源左衛門の二男で児小姓に召し出された者である。百五十石取っていた。殉死の先登はこの人で、三月十七日に春日寺で切腹した。十八歳で・・・ 森鴎外 「阿部一族」
某儀明日年来の宿望相達し候て、妙解院殿御墓前において首尾よく切腹いたし候事と相成り候。しかれば子孫のため事の顛末書き残しおきたく、京都なる弟又次郎宅において筆を取り候。 某祖父は興津右兵衛景通と申候。永正十一年駿河国興・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫