・・・「にじはなみだち きらめきは織る ひかりのおかの このさびしさ。 こおりのそこの めくらのさかな ひかりのおかの このさびしさ。 たそがれぐもの さすらいの鳥 ひかりのおかの ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
秋風が冷や冷やと身にしみる。 手の先の変につめたいのを気にしながら書斎に座り込んで何にも手につかない様な、それで居て何かしなければ気のすまない様な気持で居る。 七月からこっち、体の工合が良くない続きなので、余計寒が・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・あげくのはてが自分の心をおもちゃにしてクルリッともんどりうたしてそれを自分でおどろいてそのまんま冥府へにわかじたての居候となり下る。妙なものじゃ。第一の精霊 その様に覚ったことは云わぬものじゃよ。どこの御仁かわしゃ得知らんがあの精女の白・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・副委員長をしている石井万治という人は嫌疑をかけられている書記長の自宅を訪問し、他所へつれて行って饗応し、ノートをひらいて、緊急秘密指令三百十一号、三百十八号というものをみせ、あなたのことについては骨を折るという話をしています。その指令三百十・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・糸を紡ぐこと、織ること、そしてそれを体にまとえるように加工することは非常に古い時代から女のやることであった。これはギリシア神話の中のアナキネという話の物語にでも推察される。アナキネは大変美しく可愛い娘で、織物を織ることが上手であった。みごと・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・政治について婦人のもたなければならない自覚をもてと云われるなら、それは、政治の事大主義に膝を折ることではなくて、小さいながらまともな種をより出して、それを成長させる地道な見とおしをもつことではなかろうか。 ウォーレスの進歩党綱領が発表さ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・そこで、婦人たちは、先より上手に絨毯を織るように、編物をするようになったばかりではない。生産が社会主義的にやられれば、勤労者に得だという事実を学んだのだ。 一九二六年に、ソヴェト同盟内の各民族の男女がどの割合で読書きを知っていたか。これ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・という箇処のあたり、または同じ千六が「足を折るとまたしばらく詩人になった」というような人生的なようなまとめた文句にして表現しているところ。そういう心情のモメントの概括は本質において常識で、土台それでまとまりがつくなら小説はいらないと云えるよ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 自分がものを覚えるようになった日から続いていた幻の王国の領地で、或るときは杉の古木となり、或るときは小川となり、目に見えぬ綾の紅糸で、露にきせる寛衣を織る自由さえ持っていた自分は、今こうやって、悲しく辛い思いを独りでがまんして坐ってい・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・そして娘さんの世界には、糸をひくこと、染ること、綿を織ること、それが女一人前の資格の一つとして立ちかえって来るのだろうか。昼間は機械工として近代の工業に参加する娘さんの、夜なべの仕事は綿紡ぎになるのだろうか。 牧歌的な懐古の趣ばかりがこ・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
出典:青空文庫