・・・には、七つの恐しき罪に人間を誘う力あり、一に驕慢、二に憤怒、三に嫉妬、四に貪望、五に色欲、六に餮饕、七に懈怠、一つとして堕獄の悪趣たらざるものなし。されば DS が大慈大悲の泉源たるとうらうえにて、「じゃぼ」は一切諸悪の根本なれば、いやしく・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・が、新たに入社するものはこの伝統の社風に同感するものでも、また必ずしも沼南の人物に推服するものばかりでもなかったから、暫らくすると沼南の節度に慊らないで社員は絶えず代謝して、解体前の数年間はシッキリなしにガタビシしていた。 就中、社員が・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・「翌々日の新聞を見ると年は十九、兵士と通じて懐胎したのが兵士には国に帰って了われ、身の処置に窮して自殺したものらしいと書いてありました、ともかく僕はその夜殆ど眠りませんでした。「然かし能くしたもので、その翌日少女の顔を見ると平常に変・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・文芸家の実行力の薄弱、社会的善の奉仕の懈怠等は皆ここから生じるのだ。この利己と利他、厳粛主義と情緒主義との調和の問題も倫理学上の根本問題である。 つぎに人格主義か、幸福主義かの問題が横たわる。 物象的価値の感情と自我価値感情とは対立・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・二十一歳のときすでに法然の念仏を破折した「戒体即身成仏義」を書いた。 その年転じて叡山に遊び、ここを中心として南都、高野、天王寺、園城寺等京畿諸山諸寺を巡って、各宗の奥義を研学すること十余年、つぶさに思索と体験とをつんで知恵のふくらみ、・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そして、一九二八年三月十五日、三・一五として歴史的に知られている事件のころから共産党の組織に全国的にはいりはじめていた警察スパイが、最もあからさまに活躍して、様々の金銭問題、拐帯事件、男女問題を挑発し、共産党員を破廉恥な行為へ誘いこみながら・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・それを目的として結婚したのに、その中心が失われたとすれば、もうその結婚は意味のないものとして、解体してしまうだろうか。そういう生理の条件であれば、愛着の心なんかは一つの感傷として踏みこえて、別の、子供をもてる男のひとをさがしてゆくのが自然な・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・日配の解体、再編成は、集中排除法という経済面から強行されて、三ヵ月以上にわたった出版界の経済封鎖の過程では、大出版企業者をのぞく、すべての出版事業がいちじるしい危機にさらされた。こんにち揺がない大出版企業の代表者たちが、文化上どのような性質・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・あの辺の村落は恐ろしい勢で解体しつつある。畑などどしどし宅地に売られ、広い地所をもった植木屋は新しい切り割り道を所有地に貫通させ、奥に、売地と札を立てた四角い地面を幾区画か示している。私なら、ああいう場処に住むのはいやと思った。新開地で樹木・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・日本の財閥が外見上解体されたとして、どうして徒弟制が絶滅したといえよう。バイブルに、男女は差別ある賃銀を、と書いてはなかろうが、カソリック教徒である日本の文相は、それらを教員たちとの係争点にしている。あらゆる市民が半封建的なものからの離脱を・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
出典:青空文庫