・・・は、この作家が彼の主観の角度にしたがってソヴェトから何をどう見て来たかというそのこと自体を、現代文化の崩壊的な一つの現実の姿として眺めるために役立ちはするが、ソヴェト生活のルポルタージュであると云えないことは周知のとおりである。 徳永直・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ 今日新しい社会的な環境の中で、両性の協力ということを友情や、恋愛の感情の基本にあるものとして、一般がとり上げ初めたこと、そして私もその角度から率直に、話せるようになって来た事。このことを考えただけでも、日本の社会が絶大な犠牲を払って歩・・・ 宮本百合子 「あとがき(『幸福について』)」
・・・をめぐってくりひろげられた当時の情景は、さまざまの角度から劇的な一つの図絵である。わたしとしては、この経験から根本的な一つのことを学ぶことができた。それは、作品批評とはどういう風にされなければならないかということについての、批評の階級性なら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・だから、ひとつひとつ切りはなしていわれていることだけについてみれば、みんな何かの角度で当時の狭くるしくて、職人風な「文壇」の否定であった。せまくるしい文壇文学・私小説の枠をやぶって発展したいという文学者自身の要求にそくして云われているかのよ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・軍国主義の餌じきとされて来ていた日本人民の人間性・知性が重圧をとりのぞかれてむら立つように声をあげはじめたとき、自我の確立とか自意識とかいうことが言われはじめたとき、そういう角度を手がかりとして自分の人生を見なおしはじめた若い人たちのうちで・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・のなかには、その人たちの生活感情のうちにひそんでいて、しかも日ごろはそこに触れられることのない人間的な要素に、なにかの角度からおとずれてゆく情感があったからにちがいない。それはなんだったろう。医師ラヴィックの生活をとおして全面に描き出されて・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・屋根の波の面白さ、それから段々と低くなって並木通へ視線が導かれ、そこに在る点景の白い婦人の姿を中心として一層ひろい海面へのびてゆくリズムは実に変化と諧調に富んでいて、眺めていると複雑にとらえられている角度や線の交錯から、その海辺に都会がつく・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・その現実に対する角度は、芭蕉のように身を捨てて天地の間に感覚を研ぎすました芸術家の生涯にある鋭い直角的なものではなく、謂わば芭蕉を味うその境地を自ら味うとでも云うべき、二重性、並行性があり、それは、藤村の文章の独特な持ち味である一種の思い入・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・この大きな歴史的な課題は、それぞれの民主的な作家によって、それぞれの地点と角度から、それぞれの色あい度あいによってはたされてゆくであろう。「風知草」「播州平野」「二つの庭」「道標」それにつづいて執筆されつつある一九四五年以後の作品は、その作・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・時にはテーマの屈折角度から、時には黙々たる行と行との飛躍の度から、時には筋の進行推移の逆送、反覆、速力から、その他様々な触発状態の姿がある。未来派は心象のテンポに同時性を与える苦心に於て立体的な感覚を触発させ、従って立体派の要素を多分に含み・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫