・・・なぜなら誰でも自分だけは賢く、人のしていることは馬鹿げて見えるものですが、その日そのイギリス海岸で、私はつくづくそんな考のいけないことを感じました。からだを刺されるようにさえ思いました。はだかになって、生徒といっしょに白い岩の上に立っていま・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ いまこの四冊の評論集をながめて、書評を書こうとし、非常に困難を感じる。なぜなら、この四冊の本には、著者の二十年近い生活とその発展のひだがたたまれている。しかもそれは一人の前進的な人間の小市民的インテリゲンツィアからボルシェビキへの成長・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・の中のむずかしい漢字は、今日の読者のためにかなに直した。 一九四八年九月〔一九四九年二月〕 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・は当時のすべての作家の作品がそうであったように、漢字が多くつかわれ、漢字にはふりがなをつけて印刷された。現代の読者にとってそれは不必要な重荷であるから、この選集に収録するにあたって、漢字をだいぶ仮名になおした。文章そのものはもとのままである・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 発表当時、会話が棒ではじまっていたり、くせのあるてにをはがつかってあったりした部分は、不必要な漢字と一しょにこのたび訂正されている。当時伏字にされて今日ではうずめられないところは、その要旨を附記してそのままにされている。終りには「社会・・・ 宮本百合子 「あとがき(『モスクワ印象記』)」
・・・彼女は莞爾ともしないで眼を通した。彼が新聞に出そうと思った広告の下書きであった。『女中雇入れたし。家族二人。余暇有。十八歳以上。給。面談。』 広告は幸応えられた。 二日経って広告が掲載されると其朝、さほ子は、間誤付をかくした・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ どうしてそんな手をしてこの火の気のない室に莞爾としていられるのかと、猶も胴ぶるいをこらえつつ観察したら、その文人の長上着の裏にはすっかり毛皮がつけられていたそうです。私たちも、そんなあんばいにやりとうございますね。 全くあなたがお・・・ 宮本百合子 「裏毛皮は無し」
・・・そして、彼が自分の子供たちに皆マリ、アンヌ、オットウ、ルイなどという西洋の名をつけていたことに思い到り、しかもそれをいずれも難しい漢字にあてはめて読ませている、その微妙な、同時に彼の生涯を恐らく貫ぬいているであろう重要な心持を、明治文学研究・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・――御参考までに○ 婦人民主クラブ役員改選のこと 来る六月十三日の会合で、多分役員改選が議題にのぼるでしょう 今まで発企人のいすわり常任幹事でしたが幹事全体と地区の代表のような人でセンコウ委員を選んで そこからのスイセンコー・・・ 宮本百合子 「往復帖」
・・・だの美辞は横溢しているくせに、級の幹事が、ここで女教師代用で、髪形のことや何かこせこせした型をおしつけた。その頃の目白は、大学という名ばかりで、学生らしい健全な集団性もなく、さりとて大学らしい個性尊重もされていなかった。 学生というはっ・・・ 宮本百合子 「女の学校」
出典:青空文庫