・・・ さらに一つは、義務とか理想とかのために、人間が機械となる場合がある。ただ何とはなしに、しなくてはならないように思ってする、ただ一念そのことが成し遂げたくてする。こんな形で普通道徳に貢献する場合がある。私も正しくその通りのことをしている・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・どんな小さな地震をも感じる地震計という機械に表われた数は、合計千七百回以上に上っています。 二 災害の来た一日はちょうど二百十日の前日で、東京では早朝からはげしい風雨を見ましたが、十時ごろになると空も青々とはれて・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・この大変災を機会として、すべての人が根本に態度をあらためなおし、勤勉質実に合理的な生活をする習慣をかため上げなければならないと思います。 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・もとより始めは奇怪なことだと合点が行かなかった。別に証拠といってはないのだから、それが、藤さんがひそかに自分に残した形見であるとは容易に信じられるわけもない。しかし抽斗は今朝初やに掃除をさせて、行李から出した物を自分で納めたのである。袖はそ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ この奇怪な壁のすがたにはじめて目をとめたものはむすめでした。「まあたくさんな目が」 とそう言いだしました。 なるほどいろいろな目がありました。大きくって親切らしいまじめな目や、小さくかがやくあいきょうのある子どもの目や、白・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・そのかたがいなければ、工場の機械が動かないんですって。大きい、山みたいな感じの、しっかりした方。 ――私とは、ちがうね。 ――ええ、学問は無いの。研究なんか、なさらないわ。けれども、なかなか、腕がいいの。 ――うまく行くだろう。・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ ――うん。機会があれば、ね。」 次男は、ふっと口をつぐんだ。そうして、けッと自嘲した。二十四歳にしては、流石に着想が大人びている。「あたし、もう、結末が、わかっちゃった。」次女は、したり顔して、あとを引きとる。「それは、きっと・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ひとが何かいうと、けッという奇怪な、からす天狗の笑い声に似た不愉快きわまる笑い声を、はばからず発するのである。ゲエテ一点張りである。これとても、ゲエテの素朴な詩精神に敬服しているのではなく、ゲエテの高位高官に傾倒しているらしい、ふしが、無い・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・乗って来た自転車を、其のまま売り払うのは、まだよい方で、おじいさんが懐からハアモニカを取り出して、五銭に売ったなどは奇怪でありました。古い達磨の軸物、銀鍍金の時計の鎖、襟垢の着いた女の半纏、玩具の汽車、蚊帳、ペンキ絵、碁石、鉋、子供の産衣ま・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・それに、その女たちにも会う機会がない。遺憾だとは思ったが、しかたがないので、そのまま筆をとることにした。 六月の二日か三日から稿を起こした。梅雨の降りしきる窓ぎわでは、ことに気が落ちついて、筆が静かな作の気分と相一致するのを感じた。その・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
出典:青空文庫