・・・ゴロツキ新聞の排除、用紙配給の是正、購読者の要求への即応という掘割をとおって、戦後の小新聞は、民主的な性格のものをふくめて、大企業新聞に吸収された。そして、一九四九年の秋の新聞週間には「新聞のゆくところ自由あり」と、記者たち自身にとってもけ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・銀行、大企業が、9/10を所有している戦時公債を、財産税でとりあげた人民の金で償還しようとしている政府。そういう政府が、財閥的私的権力でないと云うものは恐らくないであろう。目前の食糧問題という全くの公的課題を、忍耐ふかき日本の人民は、日に日・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ソヴェトが一九一七年から十二年の星霜を経て、その深刻な根本的改変と建設との成果に立って、社会主義生産の段階に到達し、生産の全面と文化の全部門から利潤追求の企業性を排除しえたとき、国内的に勤労階級と有識人階級との対立、貧農と富農との対立が消え・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 作家は、大部分が出版企業に結びつけられて、真の儲けは、出版屋が吸いとっている。これは明々白々である。皮肉にいえば、粗末なタネであることを自ら知っている作家だけが、主観的に、タネの粗末さにしては儲けがある、と思うだけである。 文学を・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・戦時中、大軍需会社の下うけをやっていて、小金をためたような小企業家が、さて、敗戦と同時に、何か別途に金をふやす方法をさがした。軍部関係で闇に流れた莫大な紙があった。戦後、続出した新興出版事業者は、ほとんど例外なしに、この敗戦おきみやげたる紙・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・有識人たちの日暮しは、直接自分の肉体で自然と取組みもしないし、野心満々たる企業家でもなかった。一種の批評家として、あるいは当時の支配的社会勢力の理論化のための活動家としての役割である。 近代工業が勃興して、大工場が増加し、そこに働く労働・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・どうせジャーナリズムはますます大資本の独占的企業になりつつあるのだから、と素朴に反発するだけではすまされない。なぜなら日本のわたしたち全人民の生活は大資本の国際的な企業のあみめにはいっていて、八千万人の従順な奴隷と外国人から率直な現実指摘を・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・に、それぞれ主観の利益に立った個々の生きかたを続けて来たところへ、今日は一方から謂わば純理的な方針が与えられ、しかもその純理的な算数の根本には、まだ従来の生産の形式がそのままでいるという複雑さである。企業合同の今日の性格の歴史的な入りくみか・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・記録的な分裂メーデーが今年行われた所以だが、企業内の大衆を現在の情勢ではただ上から押えつけたのではもう通用しない。逆に闘争へ立たせるので、社会ファシストをつかって「左翼的」なかけ引きをさせ、大衆自身が内部的に統一されない気分を持つようにと悪・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・けれども、出版という企業がはっきり、利益を目当としたものとして行われている今日の社会では、出版企業につながる文学行動の一つのあらわれとしての小説にも、商売的いきさつは、かかわって来ざるを得ない。原稿が売れないで結構と考えている作家は一人もい・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
出典:青空文庫