・・・先生は此有様を見て恰も強有力なる味方を得たるの思いして、愉快自から禁ずる能わざると同時に、又一方を顧みれば新条約実施の期限は本年七月と定まり、僅々一年の後には外国人も内地に雑居して日本人と郷党隣人の交際を為すに至る可しと言う。従来の儘なる我・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・即ち居家の道徳なれども、人間生々の約束は一家族に止まらず、子々孫々次第に繁殖すれば、その起源は一対の夫婦に出るといえども、幾百千年を経るの間には遂に一国一社会を成すに至るべし。既に社会を成すときは、朋友の関係あり、老少の関係あり、また社会の・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・天の人を生ずるや男女同数にして、この人類は元一対の夫婦より繁殖したるものなれば、生々の起原に訴うるも、今の人口の割合に問うも、多妻多男は許すべからず。然らば人事の要用、臨時の便利において如何というに、人間世界の歳月を短きものとし、人生を一代・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・天明以後絵画にわかに勃興して美術史に一紀元を与えたることにつきて、蕪村もまた多少の原因をなさざりしにはあらざるも、その影響はきわめて微弱にして、彼が俳句界における関係と同日に論ずべきにあらず。 天明は狂歌盛んに行われ、黄表紙ようやく勢い・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・すぐご機嫌が直ったでしょう。今日は一つうんとおもしろいことをやりましょう。動物園をあなたはきらいですか」と言いました。 ホモイが、 「うん。きらいではない」と申しました。 狐が懐から小さな網を出しました。そして、 「そら、こ・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・ 三通りの発展の段階があるにしても、唯一つ、最も基本的で共通な点は、民主社会においては、婦人が、全く人口の半分を占める男子の伴侶であって、婦人にかかわるあらゆる問題の起源と解決とは常に、男子女子をひっくるめた人民全体の生活課題として、理・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
先達て「リビヤ白騎隊」というイタリー映画の試写を観る機会を得た。原作はフランスのジョセフ・ペイレのゴンクール受賞作品だそうで、ファッショ紀元十五年度のムッソリーニ賞杯獲得映画である。筋は単純なものである。クリスチアーナとい・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 栄蔵は、機嫌をなおして達の持って来たリンゴのさくさく舌ざわりのいいのを喜んで、お節の止めるまで食べた。 リンゴを食べながらも栄蔵は、どうしても達が只戻ったのではなさそうだと想った。 いかほど考えても一週間十日の暇のもらえる・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ コフマンは、猿と類人猿の話につづく次の章で変った人種の話の項を展開しているが、私たちはこれらの部分では、おのずからダーウィンの「種の起源」と「人及び動物の表情について」という同じ科学者の感興つきない研究へひきつけられる。さらに今日常識・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ やがて予定の伯林滞在の期限がすんで、ケーテ・シュミットは故郷のケーニヒスベルクへかえってきた。シャウフェルは、父親に、ケーテが完成するまで自分の画塾に止るようにすすめたが、それが実現しないうちに、シャウフェル自身がイタリーのフローレン・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
出典:青空文庫