・・・けれども、実際にあたると、文化は複雑な有機体であって、建設的である過程も甚だいりくんでいる。 この間こんな話をきいた。明日の日本の文化と精神の建設について研究してそのための役についている人から、日本人にはもっとシェークスピアを理解させな・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・森鴎外、二葉亭四迷、夏目漱石等の作家が見なおされたのであるが、ここでも亦逢着する事実は、明治日本のインテリゲンツィアの呼吸した空気は、昭和九年の社会と文壇とに漲ってインテリゲンツィアを押しつつんでいる気体とは全く異っていたという発見である。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・「希代の少年空巣。年にチョロリ三百万円」、「アゴで大人使う少年強盗」そして、日大ギャング事件の山際・左文の公判記事は、大きく写真入りで扱われている。 信濃教育会教育研究所が、小学生の行動について父兄が問題だと考える点を調査したら、「・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・ソヴェト作家シーモノフは、このアメリカの巨大な有機体のなかに入って、自身の社会主義的自覚を、自身の人間的内在性すべての亢奮をとおし、自然発生の諸眩惑と誘惑とをとおして、対決させないわけにはゆかない。自身の理性の最大を働かすだけの刺戟をうける・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ プロレタリア文学運動を退潮せしめた力は、社会情勢の有機体の内でやはりブルジョア文学をも萎縮させざるを得ない実際となった。一般人の生活水準の低下と社会的自主性の低減は、日本のブルジョア文学の独特な伝統が、ヨーロッパのイッヒ・ロマンとはま・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・後者は、極地着陸のトップを切ろうと焦って、機体の検査をしなかったので、遭難してしまう。「俺はブリノフでなく、ベスファミーリヌイにならなくちゃならない」そう思いながらヴォドピヤーノフは、書きつづけて、北極征服の空想小説「操縦士の空想」をかき上・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・ ところが、いわゆる、境遇の変化という通路によって、新たな有機体の中に這いったものは、そう容易に自己の場所を心的に見出し得るものではないと思います。押され自らも押し、種々な力の牴触を経て、しっくりと或る処に真から落付く。それから徐ろに周・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・は貴からずとも、この方が求め参れと申しつけたる珍品に相違なければ大切と心得候事当然なり、総て功利の念を以て物を視候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやその方が持ち帰り候伽羅は早速焚き試み候に、希代の名木なれば「聞く度に珍らしければ郭・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・木は貴からずとも、この方が求め参れと申つけたる珍品に相違なければ、大切と心得候事当然なり、総て功利の念をもて物を視候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやその方が持帰り候伽羅は早速焚き試み候に、希代の名木なれば、「聞く度に珍らしければ・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・どの顔を見ても、物を期待しているとか、好奇心を持っているとか云うような、緊張した表情をしているものはない。 丁度僕が這入った時、入口に近い所にいる、髯の長い、紗の道行触を着た中爺いさんが、「ひどい蚊ですなあ」と云うと、隣の若い男が、「な・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫