・・・この母の時代の姿であらわされているアメリカの女の強靭な生活力が、次の世代である娘の時代の姿として「この誇らかな心」となって表現されてきていることは、非常に興味深いことである。パール・バックは、「母の肖像」で豊富な生活力が自然の豊かさそのまま・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・十六の少女として父さんと浜で重い材木を動かす手伝いをして働いた時から、ずっと勤労の生活が経験されていて、その経験は、天性の気質に、一つの現実的な厚いゆたかで強靭な裏づけを与えることとなっている。 作者がある意味で話し上手で、楽な印象を与・・・ 宮本百合子 「『暦』とその作者」
・・・ 現実は豊饒、強靭であって、作家がそれに皮肉さをもって対しても、一応の揶揄をもって対しても、大概は痛烈な現実への肉迫とならず、たかだか一作家のポーズと成り終る場合が非常に多い。作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性を・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 益々強靭である故に美しく、複雑な事象の波瀾におどろかない史眼、その洞察力の故に一層感動深いリアリズムを求めてゆくしかないのではなかろうか。文学におけるリアリズムもやはり世界史的な拡大のときにあって、従来対置されているロマンティシズムが・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・時には、うんざりさせてしまうような調子の高い陽気さも彼女の裡にはしっくりと融和されて、女性の強靭な弾力を輝やかせる一色彩となりますでしょう。 彼女こそは愛すべき永遠の女性として、地上の歓びを生むべきなのでございます。 けれども、C先・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 大体レフ・トルストイの思想と芸術とは、世界文学に冠絶した強靭な追求力、芸術的描写の現実性をもっているにかかわらず、当時ロシアに擡頭し発展しつつあった社会思想とは全然別な道を行っていた。個人個人の人間性への自覚、道徳的・宗教的愛の実践と・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・この作品が道具立てとしてはさまざまの社会相の面にふれ、アクつよきものの諸典型を紹介しようと試みつつ、行間から立ちのぼって最後に一貫した印象として読者にのこされるものは、ある動的なもの、強靭で、肺活量の多いものを求めている作者の主観的翹望であ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・然し或る時は、狂人のように潔癖だ。そして変な物を並べる商人を何かの形で思い知らせる。 のどかな漫歩者の上にも、午後の日は段々傾いて来る。 明るく西日のさす横通りで、壁に影を印しながら赤や碧の風船玉を売っていた小さい屋台も見えなく・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・我々は、鋭く強靭に、粘りづよく自身の日常闘争を押しすすめよう。そのことによって、政治的に高まり、新しいタイプのプロレタリア作家として自身を鍛え上げよう。よいプロレタリア文芸の働き手はいつも必ず闘争においてひるむことを知らぬ卓抜周密な同志であ・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・文学がその作家の文学的性格の強靭さの故によるというよりは寧ろ、世間を渡る肺活量の大きさで物をいうという現象は、文化と文学のこととして何と解釈され、何と反省されなければならないことであるのだろうか。 文学に人間を再生させようという地味だが・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫