・・・ 民衆のこの生活力の上に立つ限りСССРはアメリカの僧侶が希望する以上に強靭な存在であるのだ。 ファイエルマンは明りを暗くすると、寝台の横のトリムボチカをあけ乍ら 私に云った。――私のすることを見もききもしないで下さいね 彼・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・それをしないからと云って叱るものがないにしろ、人間としてなすべきことと知ったときには我身に負うてそれを敢て行う合理性の強靭さではないだろうか。夏目漱石時代のインテリゲンツィアさえ、この人格自立の精神についての原則は理解し、主張している。文学・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・おのおのの特性を少しも失うことなく、而も友情と云う強靭な調帯によって、結果に於ては二人ながら希望する目的に向って、共同作業を営んでいるのです。 ここに於て、必然子供の出生と云うことに就ては、多くの場合、明かな意識が加えられて来ます。日本・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・繊細、強靭、且疳がつよくて、音に対する態度は貴族的であり命令的である。嵩よりも線の感じのつよい指揮の態度なのであった。 私の好みに必ずしもあうとはいえないながらその完成ぶり、大家ぶりにやっぱり感服した。 黒い服に栗色の髪をもったカル・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・リー夫人の科学上の学識、技能を更に広いところから包んで、そのものの完成をも可能ならしめたもの、それはもとより当時の社会の条件と、彼女自身の堅忍であり、不撓な意志でもあるが、もう一歩つきつめてその堅忍や強靭な意志が何処から生れて来ていたかと考・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・後に思えば気の毒であるが、この時は私の心中に、若し狂人ではあるまいかと云う疑さえ萌していた。 それから私は取敢ずこんな返事をした。君は私を買い被っている。私はそんなにえらくはない。しかし私の事は姑く措くとして、君は果して東京で師事すべき・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・騎兵と歩兵と砲兵と、服色燦爛たる数十万の狂人の大軍が林の中から、三色の雲となって層々と進軍した。砲車の轍の連続は響を立てた河原のようであった。朝日に輝いた剣銃の波頭は空中に虹を撒いた。栗毛の馬の平原は狂人を載せてうねりながら、黒い地平線を造・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・人間が十人集れば、一人ぐらいは、狂人が混じっていると思っても、宜しいでしょう。」「そうすると、今の日本には、少しおかしいのが、五百万人ぐらいはいると思っても、さしつかえありませんね、あはははははは――」 笑う声が薄気味わるく夜の灯火・・・ 横光利一 「微笑」
・・・実際落葉樹の軟らかい葉には針のように突き刺すことができる。葉脈が縦に並んでいて、葉の裏には松の脂が出るらしい白い小さい点が細い白線のように見えている。実際強靭で、また虫に食われることのない強健な葉である。それに比べると、欅の葉は、欅が大木で・・・ 和辻哲郎 「松風の音」
・・・と叫ぶ者は狂人をもって目せらる。姑息なる思想! 安逸に耽る教育者! 見よ汝が造れる人の世は執着を虚栄の皮に包んだる偽善の塊に過ぎぬじゃないか。要するに現代の道徳は本義として「物質的超越と霊的執着とをもって自ら処決せよ」と求む。言い変うれば「・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫