・・・ 二 生、労作そして自他 書物は他人の生、労作の記録、贈り物である。それは共存者のものではあっても、自分のものではない。自分の生、労作は厳として別になければならぬ。書物にあまりに依頼し、書物が何ものでも与えてくれ、書・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・は小説ではない。記録的なものである。日露戦争に弾丸の下に曝された一人の将校によって書かれた。そこには、旅順攻囲戦の戦慄すべき困難と愛国的感情の熱烈な無数の将校の犠牲の山が書かれている。所どころ、実戦に参加した者でなければ書けないなま/\しい・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ロシア革命運動に関する記録を見よ。過去四十年間に、この運動に参加したため、もしくはその嫌疑のために刑死した者が数万人におよんでいるではないか。もしそれ、中国にいたっては、冤枉の死刑は、ほとんどその五千年の歴史の特色の第一ともいってよいのであ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・れる者、日に幾千人に上れるではない歟、日本幕末の歴史を見よ、安政大獄を始めとして、大小各藩に於て、当路と政見を異にせるが為めに、斬に処し若くば死を賜える者計うるに勝えぬではない歟、露国革命運動に関する記録を見よ、過去四十年間に此運動に参加せ・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・チンポも何もすっかり出して、横を向いたり、廻われ右をしたり、身体中の特徴を記録にとられた。俺は自分でも知らなかった背中のホクロを探し出された。其処で、俺は「青い着物」をきせられたのだった。 青い着物を着、青い股引をはき、青い褌をしめ、青・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・短い冥想の記録のようなもので、彼処で書いたものには、私の好きなものが沢山ある。意地の悪い鳥が来て高い梢の上で啼くのを聞いて、皮肉屋というものが、文壇にばかりいると思ったら、こんな処にもいた、というような事を書きつけた事があったが、斯ういう軽・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・かれは、ときたま、からだをちぢめて、それら諸先輩に文学上の多くの不審を、子供のような曇りなき眼で、小説と記録とちがいますか? 小説と日記とちがいますか? 『創作』という言葉を、誰が、いつごろ用いたのでしょう、など傍の者の、はらはらするような・・・ 太宰治 「喝采」
・・・こんな出鱈目な調子では、とても紀元二千七百年まで残るような佳い記録を書き綴る事は出来ぬ。出直そう。 十二月八日。早朝、蒲団の中で、朝の仕度に気がせきながら、園子に乳をやっていると、どこかのラジオが、はっきり聞えて来た。「大本営陸海軍・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・従ってこの年取った子供のこの一夕の観覧の第一印象の記録は文楽通の読者にとってやはりそれだけの興味があるかもしれない。 入場したときは三勝半七酒屋の段が進行していた。 人形そのものの形態は、すでにたびたび実物を展覧会などで見たりあるい・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・私はこの機会に夏目先生に関するあらゆる隠れた資料が蒐集され記録される事を切望して止まないものである。 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
出典:青空文庫