・・・ 以上は近着の Geographical Review. Oct., 1932. 所載の記事から抄録したものである。 中央アジアではまだ自然が人間などの存在を無視して勝手放題にあばれ回っている。そのために気候風土が変転して都市が砂漠・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・むやみに巾着切りのようにこせこせしたり物珍らしそうにじろじろ人の顔なんどを見るのは下品となっている。ことに婦人なぞは後ろをふりかえって見るのも品が悪いとなっている。指で人をさすなんかは失礼の骨頂だ。習慣がこうであるのにさすが倫敦は世界の勧工・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・そのとき祖母は、賑やかに揃っている連中を見渡しながら、巾着を何処へやったか判らなくなって困る困るとこぼした。 数日後の或る朝のことであった。電話が掛って来た。私は友達の家にいた。電話口に出て見ると、母の声で、祖母が四五日前から腸をこわし・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ 隅々の糸がほつれている色も分らない古巾着を内懐から出して、鍵を入れると、「一銭や二銭のお金じゃあなし、遣ろうと云えば、一生恩に被る人が、ウザウザいうほどあります。ただ湧いて来るお金じゃあなしね」とつぶやきながら、うなだれている・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫