・・・くらげはそれを消すから。おまえの兄さんもいつかひどい眼にあったから。」「そんなものおれとらない。」タネリは云いながら黒く熟したこけももの間の小さなみちを砂はまに下りて来ました。波がちょうど減いたとこでしたから磨かれたきれいな石は一列にならん・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・小説化すことは、危険をもっている。ソヴェト作家にとってさえ、それはしばしば大きすぎる主題としてあらわれているくらいである。 一九四九年のこのごろ、ジャーナリズムの上では記録文学流行がはじまっている。国際的な題材のルポルタージュがふえてい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・作者が重い比重で自分の存在にのしかかって来て、深い悲しみを与えられた人間のそういう気持を、資本主義社会の逆境で歪んで来た人間性においてとらえ作品化すことが出来ず、反対に、有閑の上流生活において腐敗させられてゆく人間の生活力として把えていると・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・小説が通俗化せば化すほど、筋は恋愛に集注して来る。その面からだけ現実を勝手にきって行く。映画でも駄作ほど恋愛一点張りになるのであるが、このことも、映画が今日の文化の中でもっている社会性を反映しているといえると思う。〔一九三七年八月〕・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・ 彼は巧く私を胡魔化す積りと見える。 どう考えてもそうとしか思えないので、栄蔵はわざわざお節にお前ほんとに手紙で来いと云ったのかと尋ねたりした。 お節も保証したけれ共栄蔵には解せなかった。 達の若々しい体をながめなが・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・の活動を妨害することで、勤労大衆がいく分なりと世界の本当の動きを階級的立場から理解出来ないようになれば、彼等にとって胡魔化すのに好都合だ。帝国主義日本の勤労大衆を反動文化で息もつかせず押し包んでおいて世界戦争を始めようと、われらプロレタリア・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・製糸所の女工さんなどをプロレタリアの女として目ざまさない為に、いろんなブルジョアくさい女学校の型ばかりの真似をして、役にも立たない作文だの、活花だの、作法だので労働の中から自ずと湧く階級的な心持を胡魔化すのです。さもなければ、後藤静香の勤労・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・我々母親は十何年来別々に暮して来ているので、警察で会っても二つの生活の対立の感じは、消すことが出来ないのであった。「どうやらこうやってはいるけれどもね」 まじまじ自分を眺め母親は、「本当に、これじゃあどっちが余計苦労しているのか・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・少しいい心持になって、さて消すと、それぎりほとぼりというものがない。すーっと、空気が自ら冷めて、元のつめたさに戻ってしまう。スタンダアドの石油ストーブは、チャスタアという名の石油だけを好む。スタンダアドが日本の会社でないように、チャスターは・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・トピックとしての思想と見聞の現実性とが、機械的に絡み合わされたこの作品での試みの後、作者は生活の思想、文学の思想として思想を血肉化す努力はすてたように見える。 判断と生きる方向とを文学的に求めてゆかず、浮世の荒波への市民的対応の同一平面・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
出典:青空文庫