・・・氏を目して、小島の主らが云々と壮語せしに比べて、吉水一門の奇禍に連り北国の隅に流されながら、もし我配所に赴かずんば何によりてか辺鄙の群類を化せんといって、法を見て人を見なかった親鸞上人の人格は頗る趣を異にしたものといわねばならぬ。風号び雲走・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・日本の諸国にあるこの種の部落的タブーは、おそらく風俗習慣を異にした外国の移住民や帰化人やを、先祖の氏神にもつ者の子孫であろう。あるいは多分、もっと確実な推測として、切支丹宗徒の隠れた集合的部落であったのだろう。しかし宇宙の間には、人間の知ら・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・片っ端から母を異にする兄弟姉妹の間に、何かありはしないか? 最近の犯罪傾向が暗示する、骨肉相殺がないか? 人々は信ずる処を失ってしまった。滅茶苦茶であった。虚無時代であった。恐怖時代であった。 棍棒は、剣よりもピストルよりも怖れられ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・抑も東洋西洋等しく人間世界なるに、男女の関係その趣を異にすること斯の如くにして、其極日本に於ては青天白日一妻数妾、妻妾同居漸く慣れて妻と妾と親しむと言う。畢竟するに其親愛が虚偽にもせよ、男子が世にもあられぬ獣行を働きながら、婦人をして柔和忍・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・○くだものと気候 気候によりてくだものの種類または発達を異にするのはいうまでもない。日本の本州ばかりでいっても、南方の熱い処には蜜柑やザボンがよく出来て、北方の寒い国では林檎や梨がよく出来るという位差はある。まして台湾以南の熱帯地方では・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・従来の不生産式体操と自ら撰を異にするじゃ。」特務曹長「閣下、何とぞその訓練をいただきたくあります。」大将「ふん。それはもちろんよろしい。いいか。では、集れっ。(総ション。右ぃ習え。直れっ。番号。」兵士「一、二、三、四・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ この点プロレタリア作家は全く根底を異にしていると思う。プロレタリア作家こそプロレタリア階級の発展の各モメントとともに発展し得る。プロレタリア作家が唯物弁証的把握によって自身の階級の当面の革命的モメントを正確に政治的に把握し得さえすれば・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ドイツは内治の上では、全く宗教を異にしている北と南とを擣きくるめて、人心の帰嚮を繰って行かなくてはならないし、外交の上でも、いかに勢力を失墜しているとは云え、まだ深い根柢を持っているロオマ法王を計算の外に置くことは出来ない。それだからドイツ・・・ 森鴎外 「かのように」
独断 芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従って個性を異にするわれわれの感覚的享受もまた、各個の感性的直感の相違によりてなお一段と独断的なものである。それ故に文学上に於ける感覚・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ ごく大ざっぱな観察ではあるが、美術院展覧会を両分している洋画と日本画とは、時を同じゅうして相並んでいるのが不思議に思えるほど、気分や態度を異にしている。もちろんそれは文展についても言えることであり、すでに十何年の歴史を負っている事実で・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫