・・・余ヤ性狷介固陋世ニ処スルノ道ヲ知ラザルコト匹婦ヨリモ甚シ。今宵適カツフヱーノ女給仕人ノ中絃妓ノ後身アルヲ聞キ慨然トシテ悟ル所アリ。乃鉛筆ヲ嘗メテ備忘ノ記ヲ作リ以テ自ラ平生ノ非ヲ戒ムト云。」 僕が文壇の諸友と平生会談の場所と定めて置いた或・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・さあ婆さん驚くまい事か、僕のうちに若い女があるとすれば近い内貰うはずの宇野の娘に相違ないと自分で見解を下して独りで心配しているのさ」「だって、まだ君の所へは来んのだろう」「来んうちから心配をするから取越苦労さ」「何だか洒落か真面・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・なるほど一時は在来の型で抑えられるかも知れないが、どうしたって内容に伴れ添わない形式はいつか爆発しなければならぬと見るのが穏当で合理的な見解であると思う。 元来この型そのものが、何のために存在の権利を持っているかというと、前にもお話した・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・局長は余に文部省の意志を告げ、余はまた局長に余の所見を繰返して、相互の見解の相互に異なるを遺憾とする旨を述べ合って別れた。 翌十二日に至って、福原局長は文部省の意志を公けにするため、余に左の書翰を送った。実は二カ月前に、余が局長に差出し・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・文芸の目的が徳義心を鼓吹するのを根本義にしていない事は論理上しかるべき見解ではあるが、徳義的の批判を許すべき事件が経となり緯となりて作物中に織り込まれるならば、またその事件が徳義的平面において吾人に善悪邪正の刺戟を与えるならば、どうして両者・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・この話は幼稚でありますが、今のイブセンの道徳の見解からいっても、イブセンはイミテーションという側の反対に立った人といわなければならない訳であります。 それで、人間にはこの二通りの人がある。というと、片方と片方は紅白見たように別れているよ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・哲学上の見解から小説と人生との接触を見たんではないらしい。にも係らず其無意味のことに意味をつけて、やれ触れたの、やれ人生の真髄は斯うだのと云う。一片の形容詞が何時の間にか人生観と早変りをするのは、これ何とも以て不思議の至りさ。 いや、何・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・ 一、輿論というと、むずかしく思えるけれども、誰でもきょうの現実に即して考えていられる生活のあれこれが、それぞれに一つずつの見解輿論のもとになっていると思います。 東京の町なかでこの間のうちあちらこちら盆踊の太鼓が鳴りました。ハア、・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・それはエリカ・マンが「私はドイツにいるあいだ政治のことは政治家にまかせておけばよいというあやまった見解でした。私ども多くのものがそう考えたために、ヒトラーが権力を握ったのです」そして「事実上ドイツ文化を代表するすべてのものが亡命する」結果に・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・そういう見解にたっていうならば、またおのずからつぎの事実が理解されてくる。こんにち、色紙の辞句にあらわれたような観念的でまた独善的な、いわば神がかりの主観にたって、これらの人々は世界の現実をあやまり、戦争を狩りたて、わたしたち全日本人民の生・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
出典:青空文庫