・・・御一新の御東幸の時にも、三井の献金は三万両だったが八兵衛は五万両を献上した。またどういう仔細があったか知らぬが、維新の際に七十万両の古金銀を石の蓋匣に入れて地中に埋蔵したそうだ。八兵衛の富力はこういう事実から推しても大抵想像される。その割合・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・しかるに、あるとき、遠い南の方から渡ってきたという、赤と緑と青の毛色をした、珍しい鳥を献上したものがありました。 お姫さまは、この鳥が、たいそう気にいられました。そして、自分の居間に、かごにいれて懸けておかれました。小鳥は、じきにお姫さ・・・ 小川未明 「お姫さまと乞食の女」
・・・ チャイコフスキイ団の如き、謙譲と真実と愛によってのみ民衆は教化せらるゝものと信じた。そして、彼等は、まさに身をもって、その任に当った。東西古今、真理を愛し、正義に感ずるもの、まさに、青年に如くはなかった。 クロポトキンは、「何事を・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ こうした涙ぐましい、謙譲にして真摯の芸術こそ、今日のような虚偽と冷酷と圧迫と犠牲とを何とも思っていない時代によって、まさしく正しい人々の胸に革新の火を燃やさずには措かないのである。トルストイの芸術がやはりそれだと思うのであります。・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・それを女風情の眼でけがされたとあってはもう献上もできない。さア、どうしてくれると騒ぎはお定の病室へ移されて、見るなと言われたものを見ておきながら見なかったとは何と空恐しい根性だと、お定のまわらぬ舌は、わざわざ呼んできた親戚の者のいる前でくど・・・ 織田作之助 「螢」
・・・ 然し母と妹との節操を軍人閣下に献上し、更らに又、この十五円の中から五円三円と割いて、母と妹とが淫酒の料に捧げなければならぬかを思い、さすがお人好の自分も頗る当惑したのである。 酒が醒めかけて来た! 今日はここで止める。 五月六・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・鋳金の工作過程を実地にご覧に入れ、そして最後には出来上ったものを美術として美術学校から献上するという。そううまく行くべきものだか、どうだか。むかしも今も席画というがある、席画に美術を求めることの無理で愚なのは今は誰しも認めている。席上鋳金に・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・ 謙譲を、作家にのみ要求し、作家は大いに恐縮し、卑屈なほどへりくだって、そうして読者は旦那である。作家の私生活、底の底まで剥ごうとする。失敬である。安売りしているのは作品である。作家の人間までを売ってはいない。謙譲は、読者にこそ之を要求・・・ 太宰治 「一歩前進二歩退却」
・・・当時の甘い批評家たちが、女の作家の二、三の著書に就いて、女性特有の感覚、女で無ければ出来ぬ表現、男にはとてもわからぬ此の心理、などと驚歎の言辞を献上するのを見て、彼はいつでも内心、せせら笑って居りました。みんな男の真似ではないか。男の作家た・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 党へ献上の資金かね? わあっはっはっ、と無気味妖怪の高笑いのこして立ち去り、おそらくは、生れ落ちてこのかた、この検事局に於ける大ポオズだけを練習して来たような老いぼれ、清水不住魚、と絹地にしたため、あわれこの潔癖、ばんざいだのうと陣笠、む・・・ 太宰治 「創生記」
出典:青空文庫