・・・ *ああ、われは献納の香炉。ささやかな火は絶えず立ちのぼる煙は やまねど行くかたを知らず 流れ行く途も弁えない。若しわが献げられた身を神がよみし給うなら寂漠の瞬間冲る香煙の頂を美し・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・第七項にその国の内政に干渉する権能を国連に与えてはならないという条項が厳存している。わたしたち日本の婦人は、どういう戦争にも日本人民として「使用」されることを断る権利をもっている。日本と米国そのものが人民の平和より何より先に戦略的な地点とし・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・この堂の建設のために、信徒は三十年も応分の寄附を怠らず、或者は子を大工や左官に仕立ててその技を献納したということだ。ゆるやかな坂をのぼった処で、黒服、鍔広帽の外国宣教師が、村の子とふざけて居る。日本人の尼僧がつれ立って、礼拝堂から出て来た。・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・まりあは、その稚い美感の制作である天蓋に護られ、献納の蝋燭の焔に少しばかりすすけ給うた卵形の御顔を穏かに傾け佇んで在られる。祭壇の後のステインド・グラスを透す暗紅紫色の光線はここまで及ばない。薄暗い御像の前の硝子壜に、目醒めるようなカリフォ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・という額を献納したのも、当を得たことだ。然し。 東京から一人新しい連れが加ったりしたので、十六日の快晴を目がけ、塩原まで遠乗りした。緩くり一時間半の行程。皆塩原の風景には好い記憶をもっていたのでわざわざ出かけたのであったが、今度は那・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ 主権在民ということは、最少限に考えて、人民自身が、行政、司法、立法の全権を有すという意味であろうし、議会の権能も、当然人民の内から選ばれた代表――議員によって掌握されなければならないものだろう。 この草案の発表された三月七日の新聞・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫