・・・火星じゃ君、俳優が国王よりも権力があって、芝居が初まると国民が一人残らず見物しなけやならん憲法があるのだから、それはそれは非常な大入だよ、そんな大仕掛な芝居だから、準備にばかりも十カ月かかるそうだ』『お産をすると同じだね』『その俳優・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・いて人知らず 張婦李妻定所無し 西眠東食是れ生涯 秋霜粛殺す刀三尺 夜月凄涼たり笛一枝 天網疎と雖ども漏得難し 閻王廟裡擒に就く時 犬坂毛野造次何ぞ曾て復讎を忘れん 門に倚て媚を献ず是権謀 風雲帳裡無双の士 歌舞城中第一流 ・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・が、坪内君が『桐一葉』を書いた時は団十郎が羅馬法王で、桜痴居士が大宰相で、黙阿弥劇が憲法となってる大専制国であった。この間に立って論難批評したり新脚本を書いたりするはルーテルが法王の御教書を焼くと同一の勇気を要する。『桐一葉』は勿論『書生気・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・一つは憲法発布が約束されて政治が休息期に入ったからだが、一つは当時の欧化熱が文芸を尊重する欧米の空気を注入して、政治家もまた靖献遺言的志士形気を脱してジスレリーやグラッドストーン、リットンやユーゴーらの操觚者と政治家とを一身に兼ぬる文明的典・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 昔、政党がさかんだった頃、自身は閣僚になる意志はてんで無く、ただ、誰かこいつと見込んだ男を大臣にするために、しきりに権謀術策をもちい、暗中飛躍をした男がいたが、良い例ではないけれども、まず、おれの気持もそんなとこだったろうか。 も・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・俊雄と申すふところ育ち団十菊五を島原に見た帰り途飯だけの突合いととある二階へ連れ込まれたがそもそもの端緒一向だね一ツ献じようとさされたる猪口をイエどうも私はと一言を三言に分けて迷惑ゆえの辞退を、酒席の憲法恥をかかすべからずと強いられてやっと・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・らかやらの女どものために、複雑奇妙の攻撃を受け、この世に女のいるあいだは、私の身の置き場がどこにも無いのではなかろうかと、ほとほと手を焼いて居りましたら、このたび民主主義の黎明が訪れてまいりまして、新憲法に依って男女同権がはっきり決定せられ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ もう、この頃では、あのトカトントンが、いよいよ頻繁に聞え、新聞をひろげて、新憲法を一条一条熟読しようとすると、トカトントン、局の人事に就いて伯父から相談を掛けられ、名案がふっと胸に浮んでも、トカトントン、あなたの小説を読もうとしても、・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・幸にも国にはまだ憲法が無い。その代りには、どこへ行って見ても、穴くらい幾らでもある。溝も幾らもある。よしや襟飾を棄てる所は無いにしても、襟くらい棄てる所は幾らもある。 日が暮れた。熱が出て、悪寒がする。幻覚が起る。向うから来る女が口を開・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・そして真率朴訥という事から出て来る無限の大勢力の前に虚飾や権謀が意気地なく敗亡する事を痛快に感じないではいられない。 以上の比較は無論ただ津田君の画のある小さい部分について当て嵌るものであって、全体について云えば津田君の画は固より津田君・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
出典:青空文庫