・・・ 作者が二十章のところで、木村の一つの経験として僅か数行で説明しているA村の地主二人が二大政党に分れて対立し、それにつれてA村の村民も二派にわかれていること、※とその強慾な番頭下山、地主の変るごとに戦々きょうきょうたるA村の小作たち・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・ 七月五日になって、夕方のラジオは意外なニュースをつたえた。下山国鉄総裁の行方不明事件が告げられた。そして、六日午前五時すぎ、小菅刑務所のわきの五反野南町のガード下で、無残な轢死体としての下山総裁が発見された。 日本じゅうに非常なセ・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・とか、政府への反抗に先手をうつつもりで、かなり拙劣に人々の気分を不安にする空気をつくった。下山事件はその典型であった。下山事件につづいておこった三鷹の無人電車暴走、そしてそのことが思いがけない犠牲者を出した事件については、こんにちでもまだわ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 下山事件は二週間たった今日やっと自殺説が表面に出されてきている。この事件で検事局が警視庁の捜査本部へ殺人の方向で進めてくれと特に注文をつけ、捜査本部はかならずしも同調しなかったことは世人の記憶にあたらしい事実である。『読売新聞』は・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・ために、わたしたちの目をあてどもなくあのことからこのことと走らせるために、落付いた分別を失わせるために、何がどうなのか正体もわからなくてただセンセーションばかりおこす事件が、次々となげ出されています。下山事件。三鷹事件。そのどれもが窮乏に耐・・・ 宮本百合子 「わたしたちには選ぶ権利がある」
・・・二十六日の夕方には、下山して橋本にいたのを人が見た。それからは行方不明になっている。多分四国へでも渡ったかと云うことである。 松坂の目代にこの顛末を聞いた時、この坊主になった定右衛門の伜亀蔵が敵だと云うことに疑を挾むものは、主従三人・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・和主もこれから見参して毎度手柄をあらわしなされよ」「これからはまた新田の力で宮方も勢いを増すでおじゃろ。楠や北畠が絶えたは惜しいが、また二方が世に秀れておじゃるから……」「嬉しいぞや。早う高氏づらの首を斬りかけて世を元弘の昔に復した・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫