・・・ みんな同じような頭を持って、生まれてきながら、よくできる人になり、また、そうでない人となるのは、やはり、この二本のいちじゅくの木のように、どこかに故障があったにちがいなかろう? 自分の力でできることは、よく反省して、注意を怠ってはなら・・・ 小川未明 「いちじゅくの木」
・・・「たぶんこの大波でゆくえを迷ったか、それとも船に故障ができてこの港に入ってきたのでありましょう。」といったものもありました。そこでその船に向かって、陸からいろいろの合図をいたしました。けれど、その船からはなんの返答もありませんでした・・・ 小川未明 「黒い旗物語」
・・・ しかし、不思議なことに、まだ陸に向かって、幾らも舟を返さないうちに、どの船も、なんの故障がないのに、しぜんと海にのみ込まれるように、音もなく沈んでしまいました。 つぎの話は、寒い冬の日のことです。海の上は、あいかわらず、銀のよ・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・「え、それは私も言ったんですがね、向うの言うのじゃ、決めておくのはいいが、お互いにまたどういう思いも寄らない故障が起らないとも限らないから、まあもう少しとにかく待ってくれって、そう言うものですからね」「お光さん」と媼さんは改まって言・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・、いまは焼けてしまったが、ここの油屋は昔の宿場の本陣そのままの姿を残し、堀辰雄氏、室生犀星氏、佐藤春夫氏その他多くの作家が好んでこの油屋へ泊りに来て、ことに堀辰雄氏などは一年中の大半をここの大名部屋か小姓の部屋かですごしていたくらい、伊豆湯・・・ 織田作之助 「秋の暈」
・・・白崎はかねがね、「俺はいつも何々しようとした途端に、必ず際どい所で故障がはいるのだ」 と、言っており、何か自分の運命というものに諦めをつけていたのである。 やがて二人はとぼとぼ帰って行った。暮れにくい夏の日もいつか暮れて行き、落・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ 骨に故障が有るちゅうじゃなし、請合うて助かる。貴様は仕合ぞ、命を拾うたちゅうもんじゃぞ! 骨にも動脈にも触れちょらん。如何して此三昼夜ばッか活ちょったか? 何を食うちょったか?」「何も食いません。」「水は飲まんじゃったか?」「・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・その時、医師の言われるには、これは心臓嚢炎といって、心臓の外部の嚢に故障が出来たのですから、一週間も氷で冷せばよくなりますとのことで、昼夜間断なく冷すことにしました。 其の頃は正午前眼を覚しました。寝かせた儘手水を使わせ、朝食をとらせま・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 腎臓の故障だったことがわかった。舌の苔がなんとかで、と言って明瞭にチブスとも言い兼ねていた由を言って、医者も元気に帰って行った。 この家へ嫁いで来てから、病気で寝たのはこれで二度目だと姉が言った。「一度は北牟婁で」「あ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・医者は腎臓の故障だと診て帰った。 行一は不眠症になった。それが研究所での実験の一頓挫と同時に来た。まだ若く研究に劫の経ない行一は、その性質にも似ず、首尾不首尾の波に支配されるのだ。夜、寝つけない頭のなかで、信子がきっと取返しがつかなくな・・・ 梶井基次郎 「雪後」
出典:青空文庫