・・・それは、答えというよりも、寧ろ、これでもまだ訊くか、と居直ったような語気で云われたのであった。 どうやら帰京して、上野駅で人を待つ用事が起った。待つ列車は青森発東北本線の上りで、夜の九時すぎにつく予定であった。 大混雑をぬけて出口に・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・ この詞の意味よりも、下島の冷笑を帯びた語気が、いかにも聞き苦しかったので、俯向いて聞いていた伊織は勿論、一座の友達が皆不快に思った。 伊織は顔を挙げて云った。「只今のお詞は確に承った。その御返事はいずれ恩借の金子を持参した上で、改・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・話には順序や語気があって、それで意味が変って来ます。先ず此頃談話して公にせられるものは、多くは本人の考とは違うものだと承知していた方が確なようです。先日の文章世界では千葉君に気の毒な思をしましたよ。どうぞそんな間違の無いように、この話はこの・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
出典:青空文庫