・・・未来に引き延ばしがたきものを引き延ばして無理にあるいは盲目的に利用せんとしたる罪過と見る。 過去はこれらのイズムに因って支配せられたるが故に、これからもまたこのイズムに支配せられざるべからずと臆断して、一短期の過程より得たる輪廓を胸に蔵・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・ 日常生活の幸、不幸にかかわる民法において一人民として婦人が夥しく無力である事から、その社会的存在を守るに力ない無権利から発したさまざまの罪過に対して、罰は一人格として受けなければならないのは、余りにむごたらしいことではないだろうか。・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 日本精神という四字が過去十数年間、その独断と軍国主義的な狂言で、日本の精神の自然にのびてゆく道をさえぎっていた罪過ははかりしれないほどふかい。作家横光利一の文学の破滅と人間悲劇の軸は、彼の理性、感覚が戦時的な「日本的なもの」にひきずら・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・そして「雀から聖骸がとれるかもしれないよ。罪科もないのに苦しみを受けた致命者なんだから……」 ゴーリキイは、いかにも彼の性質らしい現実的な問いを発した。「あの雀は死んでいないのかい?」「いや、物置に飛んで来たのを帽子でおさえてし・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そういう心情の方へ押しつけて行きました。そういう罪過はいろいろな形で彼に報いに来ました。がしかし、彼はその苦悩の真の原因を悟る事ができないのでした。私はその人の人格に同感すればするほど不愉快を感じます。そうしてその苦悩に同情するよりもその無・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫