・・・ 一 夢 百、二百、簇がる騎士は数をつくして北の方なる試合へと急げば、石に古りたるカメロットの館には、ただ王妃ギニヴィアの長く牽く衣の裾の響のみ残る。 薄紅の一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・だんだん住みやすい世の中になって御互に仕合でしょう。 かく社会が倫理的動物としての吾人に対して人間らしい卑近な徳義を要求してそれで我慢するようになって、完全とか至極とか云う理想上の要求を漸次に撤回してしまった結果はどうなるかと云うと、ま・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・「金の林檎を食う、月の露を湯に浴びる……」と平かならぬ人のならい、ウィリアムは嘲る様に話の糸を切る。「まあ水を指さずに聴け。うそでも興があろう」と相手は切れた糸を接ぐ。「試合の催しがあると、シミニアンの太守が二十四頭の白牛を駆っ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・天より我に与へ給へる家の貧は我仕合のあしき故なりと思ひ、一度嫁しては其家を出ざるを女の道とする事、古聖人の訓也。若し女の道に背き、去らるゝ時は一生の恥也。されば婦人に七去とて、あしき事七ツ有り。一には、しゅうとしゅうとめに順ざる女は去べし。・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ それより以下幾百万の貧民は、たとい無月謝にても、あるいはまた学校より少々ずつの筆紙墨など貰うほどのありがたき仕合にても、なおなお子供を手離すべからず。八歳の男の子には、草を刈らせ牛を逐わせ、六歳の妹には子守の用あり。学校の教育、願わし・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
○ベースボール に至りてはこれを行う者極めて少くこれを知る人の区域も甚だ狭かりしが近時第一高等学校と在横浜米人との間に仕合ありしより以来ベースボールという語ははしなく世人の耳に入りたり。されどもベースボールの何たるやはほとん・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・ 五六度医者といやな思いを仕合って栄蔵はたった一人の医者からはなれて仕舞った。 腰と首根と手足の附け根に、富山の打ち身の薬が小汚くはりつけてあった。 一月ほど立って手は上る様になったが指先が利かなかった。 三度の食事の度・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・時事漫画に久夫でも描きそうな野球試合鳥瞰図があると思うと、西洋の女がい、男がい、それぞれに文句が附いているのであった。「晴れて嬉しい新世帯」都々逸のような見だしの下に、新夫婦が睦じそうにさし向いになっている。やがて口論の場面が来、最後には奇・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・○電柱に愛刀週間の立看板◎右手の武者窓づくりのところで珍しく門扉をひらき 赤白のダンダラ幕をはり 何か試合の会かなにかやっている黒紋付の男の立姿がちらりと見えた。○花電車。三台。菊花の中に円いギラギラ光る銀色の玉が二つあ・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・皆が互に、互の献物を大切に仕合ってと運ぶべき処が在るのでは無いだろうか、私共の生活を透して、相互に理解し、心から協力し合える範囲が、若し所謂人情の領域にのみ限られているものとしたら、各自の生活は、余り寂しいものである。〔一九二〇年一月〕・・・ 宮本百合子 「断想」
出典:青空文庫