・・・ 武田金一郎はしゃんとして返事しました。「そうです。」「あんなことして悪いと思わないか。」「今は悪いと思います。けれどもかける時は悪いと思いませんでした。」「どうして悪いと思わなかった。」「お客さんを倒そうと思ったの・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ひとではみんな顔色を変えてよろよろしましたが二人はこらえてしゃんと立っていました。 鯨が怖い顔をして云いました。「書き付けを持たないのか。悪党め。ここに居るのはどんな悪いことを天上でして来たやつでも書き付けを持たなかったものはないぞ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・というのを見ると風邪でもひいているのでしょう、のどを白い布でまき、縞の着物を着た半白の五十越したおばさんが、蒼白いけれどそれは晴れやかな若々しい様子で隣の、これもなかなかしゃんとした小母さんと話しています。やや乱れかかった白髪と、確かり大き・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・は書き改められる、材料が惜しいと宇野氏が評しているが、書き改めるということの核心は、作者が現実と自分との角度をしゃんと明瞭にして姿勢を立て直し、改めてかかる、ということと同義なのである。 この作品評で、宇野氏が生態の描写ということをよく・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 男同士の信頼による友情の純潔性、女同士の深い友愛の結合も、根本には一人一人がそれぞれに自分の足でこの人生をしゃんと歩ける人間になりたい、ということが基礎である。〔一九四七年五月〕 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・ 美しい校舎や、森や。しゃんとした友達や、面白い学課や……。 古ぼけて歪み、暗くて塵だらけだった建物の中で、餓え渇いて、ガツガツと歯をならしていたあらゆる感情、まったくあらゆる感情とほか云いようのない種々様々な感情の渇仰が、皆一どき・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 三つ折にしたコートの中に手を入れて彼女は、しゃんと体を保って居ようとしたが、四肢の隅々から、ぐんぐんとさしのぼって来る心のゆるみにともなった訳の分らないたよりなさが、いつの間にか、グッタリと、頭を下げさせてしまった。列車がこんで次の部・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・迚もしゃんとした帯をしめて仕事をすることは出来ない。 急にお客様があったりして、私はいつもそのまま出るのだけれど、私のような働きの性質だと、どうしても働き着即ちふだん着しか仕方がない。夏は袂を元禄袖にしているのもある。願くば、このくるみ・・・ 宮本百合子 「働くために」
・・・「チェホフは、しゃんとした人だったのねえ、クニッペルに、芸術家としてお前自身の線を出せ、自分の線を発見しろ、とくりかえし云っているのよ。――でも、私はつくづく思ったわ。クニッペルにはおそらく特色とか個性とかいう位にしかうけとられなかった・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・日本に婦人のしゃんとした評論家が生れて来るのは、なかなか簡単な飛躍ではないと思える。社会的なものが深くかかわりあっている。例えば評論家と全く裏がえしの文化面に立つ大衆小説家でさえ、日本ではまだ吉屋信子を元老としなければならない状態なのだから・・・ 宮本百合子 「文学と婦人」
出典:青空文庫