・・・一体にもう少し修辞法を練る余地があるのではないかと思われました。 日本の従来の「短歌」とは形式ばかりでなく内容的にも大分ちがった別物とは思いますが、こういう新しい詩形に固有な新しい詩の世界を創造して行くのは面白いことだろうと思われます。・・・ 寺田寅彦 「御返事(石原純君へ)」
・・・平凡陳套な事実をいかに修辞法の精鋭を尽くして書いてみても、それが少なくもちゃんとした科学者の読者に「おもしろい」というはずがないのである。そういう種類のものにはやはり必ず何かしら独創的な内察があり暗示があり、新しい見地と把握のしかたがあり、・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 植物の果実のことだけを詳しく取り扱ったいわゆるカルポロジーの本を読んだときに、乾燥すると子房がはじけて種子をはじき飛ばすものの特例の一つとして Impatiens noli-tangere というものが引き合いに出ていた。インパチェン・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・の中から共通なものが抽象されて、そこに「切る」という動詞が出来、また同様にして「堅い」というような形容詞が生れる。これらの言葉の内容はもはや箇々の物件を離れて、それぞれ一つの「学」の種子になっている。 こういう事が出来るというのが、大き・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・こんな風に、文字の表面の意味とよほどちがった意味を読者に暗示するような記述法が新聞記事の中などには沢山に見出されるようであるが、これらも巧妙な修辞法の一例と思われる。 とにかく科学者には随筆は書けるが小説は容易に書けそうもない。 昔・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・が現代的科学的修辞に飾られてしばしばジャーナリズムをにぎわした。 しかしはえを取り尽くすことはほとんど不可能に近いばかりでなく、これを絶滅すると同時にうじもこの世界から姿を消す、するとそこらの物陰にいろいろの蛋白質が腐敗していろいろの黴・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ この幻術の秘訣はどこにあるかと言えば、それは象徴の暗示によって読者の連想の活動を刺激するという修辞学的の方法によるほかはない。この方法が西欧で自覚的にもっぱら行なわれこれが本来の詩というものの本質であるとして高調されるに至ったのは比較・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・その無名氏なるものがカイザー・ウィルヘルム二世であることが誰にも想像されるようにペンク一流の婉曲なる修辞法を用いて一座の興味を煽り立てた。 ペンクは名実共にゲハイムラートであって、時々カイザーから呼立てられてドイツの領土国策の枢機に参与・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ 習字と漢籍の素読と武芸とだけで固めた吾等の父祖の教育の膳立ては、ともかくも一つのイデオロギーに統一された、筋の通り切ったものであった。明治大正を経た昭和時代の教育のプログラムはそれに比べてたしかにレビュー式である。盛り沢山の刺戟はある・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・学科目に対してもあまり好ききらいはなく、かなり一様の点数を得ていたが、ただ習字だけはどうしても下手であった。これがため習字を課せられているうちは、平均点数の上から成績のほうへも影響したが、上級に進んで、習字を省かれるとともに、成績も確かによ・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
出典:青空文庫