・・・そう言う私だとて病人づらをして、世評などは、と涼しげにいやいやをして見せながらも、内心如夜叉、敵を論破するためには私立探偵を十円くらいでたのんで来て、その論敵の氏と育ちと学問と素行と病気と失敗とを赤裸々に洗わせ、それを参考にしてそろそろとお・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・無論同時に秘密警察署へも報告をいたしまして、私立探偵事務所二箇所へ知らせましたそうで。」「なるほど。シエロック・ホルムス先生に知らせたのだね。」 門番はおれの顔を見た。その見かたは慇懃ではあるが、変に思っているという見かたであった。・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・四年前に文学士になってから、しばらく神田の某私立学校で英語を教えていた。受持の時間に竹村君が教場へはいるときに首席にいる生徒が「気を付け」「礼」と号令をすると生徒一同起立して恭しくお辞儀をする。そんな事からが妙に厭であった。そして自分にも碌・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
・・・その評はこの学校の生徒についてではなく、どこかの私立学校の生徒についてだったろうと記憶していますが、何しろ私はその時大森さんに対して失礼な事を云いました。 ここで繰り返していうのもお恥ずかしい訳ですが、私はその時、君などの講義をありがた・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 平田は私立学校の教員か、専門校の学生か、また小官員とも見れば見らるる風俗で、黒七子の三つ紋の羽織に、藍縞の節糸織と白ッぽい上田縞の二枚小袖、帯は白縮緬をぐいと緊り加減に巻いている。歳は二十六七にもなろうか。髪はさまで櫛の歯も見えぬが、・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・あるいは学校費用の一点について官私を比較すれば、私立の方に幾倍の便利あること明らかに保証すべし。されば人民の政は、ただ多端なるのみに非ず、また盛大有力なりといわざるべからず。 右の次第をもって考うれば、人民の世界に事務なきを患るに足らず・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ただに実際に心配なきのみならず、学校の官立なりしものを私立に変ずるときは、学校の当局者は必ず私有の心地して、百事自然に質素勤倹の風を生じ、旧慣に比して大いに費用を減ずべきはむろん、あるいはこれを減ぜざれば、旧時同様の資金をもってさらに新たに・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・一、私立の塾には元金少なくして、書籍器械を買い塾舎を建つる方便なし。その失、一なり。一、古来、日本にて学者士君子、銭を取りて人に教うるを恥とし、その風をなせるがゆえに、私塾にて些少の受教料を取るも大いに人の耳目を驚かす。かつ大志を抱・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・一、旧藩地に私立の学校を設るは余輩の多年企望するところにして、すでに中津にも旧知事の分禄と旧官員の周旋とによりて一校を立て、その仕組、もとより貧小なれども、今日までの成跡を以て見れば未だ失望の箇条もなく、先ず費したる財と労とに報る丈けの・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・一つは市立の女学校であり、この場合の性質は、学校の経営的な原因より、むしろはっきり、戦時的認識を若い娘心に銘させようとする意味に立っているのである。 どの新聞雑誌を見ても、銃後の婦人の力の実質が、この頃は生産拡充への直接間接の参加という・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
出典:青空文庫