・・・「でも、何とやらで、いつはずれるか知れたものじゃアない」「それがいけなけりゃア、また例のお若い人に就くがいいや、ね」「それがいけなけりゃア――あなた?」「馬鹿ア言え。そんな腑ぬけな田村先生じゃアねえ。――おれは受け合っておく・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・当時朝から晩まで代る代るに訪ずれるのは類は友の変物奇物ばかりで、共に画を描き骨董を品して遊んでばかりいた。大河内子爵の先代や下岡蓮杖や仮名垣魯文はその頃の重なる常連であった。参詣人が来ると殊勝な顔をしてムニャムニャムニャと出放題なお経を誦し・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・その日本語でこう言うだろうと云う推測は、無論私の智識、私の材能に限られているから、当るかはずれるか分らない。しかし私に取ってはこの外に策の出だすべきものが無いのである。それだから私の訳文はその場合のほとんど必然なる結果として生じて来たもので・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫